駄文徒然日記

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『中島敦(ちくま日本文学12)』 中島敦

うわー、面白かった!!…いや、ホントびっくり。
高校時代、教科書に載ってた「山月記」が漢文の読み下し文みたいで、
「作者ってほんとに日本人なの?」ととっつきにくかったイメージがあり、
中島敦は今まで手を付けてきませんでした。
あーん、なんかもったいない。大学時代なんかに読んだら、痛いとこ突かれまくりで悶えてたかもしれない(笑)
そしてすんごくはまり込んでたかもしれないのに!
そんな「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」をくすぐる作品の数々!

と思いきや、すごくバラエティーに富んだ作品集でもあるんです。それにもびっくり。
パラオとか中国とか、アッシリアとか、朝鮮とか、
いろんなところが舞台の、その地に伝わる物語の訳文だろうかと思うほど、異国情緒たっぷりな作品たち。
そして漢文もどきの難解そうなものや、気軽に読めるエッセイっぽいのとか、
ユーモアにあふれた作品とか、哲学思想を刺激する作品やら、作風も様々。
この短編集一冊でより取り見取りな感じで楽しめます。
うーん、贅沢!

私は「ちくま日本文学」の文庫版で読んだんですが、こちらはすっごいおススメです。
中島敦の文章自体はそんなに難解ではないと思うんですが、
出てくる語句がなじみない言葉が多くて難解なんですよ。
実は人名や地名だったりするだけなのに、難解漢字がずらーと並んでるものだから、
ちょっと読むのに躊躇してしまいます。
でもこの文庫は、ふりがながちゃんと振ってあるし、注釈がそのページの見開き内にあるんです。
これは非常に助かりました。
終わりのページに指はさみながら読まなくてよくて、
すぐに意味が横に書いてあるのは想像以上に読みやすいです。
理解のための簡単な解説も添えてくれていたりして、すっごく親切丁寧でした。
おかげで私でも楽しんで読むことができました(^^)/

収録作品は以下のものです。(収録順に紹介してます)

名人伝」「山月記」「弟子」「李陵」は中国が舞台で『史記』に載ってそうなお話。
史記」は詳しくないんだけど、元ネタはこちらになるのかしら??
名人伝」はどこかで読んだことあるかも。「え?わけわからん」と思った記憶が。
でも究極とはこういうことなのかな、と今回は少し納得して読むことができました。
山月記」は、高校時代、多分、真面目に授業聞いてなかったでしょうね(^_^;)すっごい好みの話でした。
ああ、なんか一人で紐をこんがらがらせるように悶えてる李徴、いい!!
「弟子」も孔子の弟子、子路が主人公のお話。これも好きだったな。
子路の、ちゃんと自分を持った様にあこがれます。
「李陵」は万城目さんの『悟浄出立』の中の、「父司馬遷」と対になるようなお話。
司馬遷と李陵が交互に語られます。

狐憑」は黒海付近の遊牧民族スキタイが題材。
木乃伊ペルシャとエジプトが舞台の、合わせ鏡のような不思議なお話。
「文字禍」はアッシリアが舞台。この作品はもう、活字好きなら惹きつけられるのは必至な話じゃないでしょうか。
すぐ読めるくらいの短編ですので、少しでも興味を持たれた方は青空文庫で是非。
ゲシュタルト崩壊、ここに極まれりって感じですし、文字に囚われる感じがたまらないです。

「幸福」「夫婦」パラオに伝わる話をもとにしたもの。
「鶏」「マリヤン」はパラオでのエッセイのようなもの。

「盈虚」「牛人」は、また中国が舞台のお話。

「巡査の居る風景」1923年の朝鮮を舞台に、朝鮮人の巡査が見る風景を描く短編。しかしこれがすごく深い…。
朝鮮と日本の歴史について知識が浅いのであまり語れませんが、
差別意識って思ってる以上に根深くて複雑なんだ、と非常に複雑な思いをした作品…。
「かめれおん日記」、こちらは女学校に勤める生物教師が主人公のお話。
この主人公がまたうじうじ言ってるんですけどね、
それがまた自分にもあるような嫌な部分をつつかれるんですよー。嫌だー><でもそれがうまい~。
うじうじうだうだな話ですけど、好きでした。

悟浄出世」「悟浄歎異」…これを読むためにこの本を借りてきたのです。
「わが西遊記」と銘打たれたこの二編。しかし全然違うテイストで描かれています。
悟浄出世」は少々堅苦しめで哲学的なお話。
「悟浄歎異」はそれに比べるとだいぶ軽い雰囲気で、悟浄の目に映る悟空がかっこいいのなんの。
斉藤洋さんの西遊記はまさにこんな感じなんだよなー。
このシリーズ、もっともっと書かれるはずだったんだろうなぁ。読みたかったな(T_T)

中島さんの知識の幅広さを思い知る、「和歌ではない歌」。
各界の著名人が、短い言葉と共にずらーと並んでいます。
ここで挙げられてる方々、全てに造詣が深いのだろうな。すごいお人だ、中島敦

動物園のお供にして読みたい「河馬」。たくさんの動物たちが短い詩のような文章で描かれています。
ちょっと格調高げに、でも良く読むとユーモアたっぷりで、中でも「麒麟の歌」は吹いてしまいましたよ。

驚くのは、巻末にある経歴。
中島敦は病気で33歳の若さで亡くなるのですが、代表作が、最後の二年にすごく集中してるんですよ。
喘息もちで体調を崩してばかりのようなのに、短い期間にこれだけの名作を書かれたとは!
この本で、素晴らしい解説を書かれている池澤さんもおっしゃってますが、
もっともっとたくさんの作品を生み出せる人だったのに、なんともったいないことでしょう><
この先もっともっと進化していく作家さんだったろうになぁ…。

でも今回、この作品集が読めて、本当に満足でした(^^)
どの作品も全て素晴らしい、質の高い短編集でした。