駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『サラバ!』(上・下) 西加奈子

素晴らしかったです。

久々に西さんの作品を読みました。「さくら」以来かな。
以前読んだ作品はすーっと読んじゃってそんなに印象に残らなかったんですが、
この作品にはガツンとやられちゃいました。
上下巻の分厚い作品ですが、その分厚さに見合った読み応えがちゃんとあって、
読み終えた充実感はたまらなかったです。

<内容紹介>(「BOOK」データベースより)

(上)
1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに―。

(下)
父の出家。母の再婚。サトラコヲモンサマ解体後、世間の耳目を集めてしまった姉の問題行動。大人になった歩にも、異変は起こり続けた。甘え、嫉妬、狡猾さと自己愛の檻に囚われていた彼は、心のなかで叫んだ。お前は、いったい、誰なんだ。


海外で生まれたという主人公の経歴はちょっと変わってるし、
周りの人もちょっと風変わりな方々がそろっているけれども、
話のテーマとしては自分と向き合い成長していく、よくあるテーマだと思います。
主人公・歩が、生まれてからこれまでを振り返って一人称で書いていく大長編です。
ただこの本がすごいのは、よくある人生の悩みを、こねくり回さない平易な言葉で、
かつ的確に描かれていることだと思います。…うーん、うまく言えないな。
誰にでも読めて、誰にでもちゃんと通じる言葉たち、と言いましょうか。
結構変わった人たちがたくさん出てくるのに、どこか共感できて、
この長さでもちゃんとぐいぐい引っ張っていって、これだけ読ませる作品って、
ありそうでない気がするんですよね。
これが直木賞受賞なのはうれしいな。たくさんの人に読んでもらえるもの。

主人公の経歴や環境、周りの人々などは普通じゃないのに、
読者の多くの人が自分を重ねる部分が多々あるであろう、不思議な作品なんですよねー。
歩と同じ立場に立ったら同じように思うかもしれない、って素直に思えちゃう。
人間、根っこには同じものを抱えてるってことなのだろうか。
さんざんやりたい放題の姉なのに、歩を諭す時の頼もしさと言ったら。
頼りなく思えたお父さんの、奥底を見た時の締め付けられる思いと言ったら。
幸せになることに執着するお母さんの想いを知った時と言ったら。
誰もが自分の場所で一生懸命に生きているんだとまざまざと思い知らされます。
そんな、それまで読んできた物語の塊が昇華していく、怒涛のラストがすごく心地よかったです。

これを読めてよかった。
本屋大賞ノミネート作品を全部読んだわけじゃないですが、私の本屋大賞は今のとこ、これですね。

この先、私が西作品を読むかと言えば、どうかわからないです(笑)
だって西さんの平易な文章自体は私好みではないんだもの…(^_^;)
でもこの本はおススメです!興味を持たれた方はぜひ読んでいただきたいです(^^)/