駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『サファイア』 湊かなえ

これは面白かったですね。
どれも最後に一捻りあって楽しめました。
(先日ドラマ化されてたようですが、このタイミングなのはたまたまです。ドラマも見てません~)

石言葉からインスピレーションを得た話なのかなぁ。読後調べてみて、なんとなくしっくりする気がしたので…。
というわけで、ネットで調べた石言葉を添えておきます。
更にその石の効果を読むと、ますます物語とリンクしているようで面白いですよ。


以下、短編ごとの感想を少しずつ。
ちょっとネタバレ気味の感想かな?気になる方はご注意を!



「真珠」
<純潔、健康、長寿、富、女王の品格、傷つきやすい心を守り忍耐が報われる、安産のお守り、静かな力強さ(黒)>

最初、異様な始まりでしたが、会話で進むのは湊さんお得意な感じで、引き込まれていきます。
親の厳しい管理が彼女をムーンラビットという歯磨き粉に執着させ、やがては犯罪を犯すまでに…。
その彼女の語りの異様さにも引き込まれますし、最後のどんでん返しはやられました。
ちょっと変な話ではありますが、短編ならありかな。


「ルビー」
<愛の疑惑、情熱、仁愛、勇気、仁徳、威厳、精神面の浄化、血液の浄化、永遠の命、美、優雅>

ある老人と家族の、不思議でほのぼのなやりとりにちらっと不穏さを秘めて、話は進みます。
施設の架空設定や大げさな人物設定は、ともすればリアリティに欠ける話になるところを、
俗っぽい姉妹が現実に引っ張っていってくれるんですよね。
少々強引だけど、このバランスは感心してしまいます。
最後、わざとうやむやにしちゃった終わり方も、この短編集らしくていいのかも。


「ダイヤモンド」
<変わらぬ愛、清浄無垢、至宝の輝き、純愛、貞節、不変>

雀の恩返し、ともいうべき不思議なお話。
男の騙される展開はありきたりだけども、雀が加わってちょっと異色風。
純粋すぎる好意って時にひどく残酷だよね…ってことかな。
もしくは雀なんていなくて本当は彼自身が…ってこと?
本当に純粋なのは、雀じゃなくて彼だった!!…なんてね。

猫目石
<静かに見守る>

ブラック感満載。ぺらぺらよくしゃべる怪しいおばさん、結構腹黒だなーなんて思ってたら、さらに上がいたよ…。
普通と思ってた家族が一皮めくればこんなことに…。
なのに最後、一家団欒風に締めくくられるなんて…怖っ。

<健康、長寿、富貴、愛の予感、純粋な愛、母性本能、悪魔払い>

これは一番好きだったかも。最後、まんまと騙されましたよ。
学生時代の女子同士のいやーな関係を織り込みつつも、最後思わぬ清々しさ。
いいな、こういうの。湊さんのこういうのもっと読みたいな。

<高潔、慈愛、誠実、徳望、心の成長、内面の実、魂を慰める、誠実さに輝く、浮気封じ、信仰、憎悪感の緩和、霊魂の沈静、賢明>

これは心が痛みました。人に甘えられない彼女が、初めてしたおねだりのせいで不幸な結末へ。
やるせなさ満載。
最初は少女マンガのような出会いに、読みながらうらやましさでいっぱいでした(笑)
こんな風に自分だけの王子様が現れることを、世の中の女性は望んでるんだろうなーと思い読んでいると、
オチでどん底に…。ひどすぎる、湊さん><
しかしこれが次の話へ続いていくんですねー。

「ガーネット」
<秘めた情熱、貞操、友愛、真実、忠実、勝利、優雅、権力、真実の愛>

石の説明の中には、「ガーネットは一途な愛を象徴するので、執着心を強める恐れもある」とあり、
まさにこの話じゃないのと思いました。
サファイア」で、あんな理不尽な結末を迎えた彼女が、ハッピーエンドとは言えなくても、
一旦区切りがつけられてよかった、と読み終えてホッとしました。
しかし、作中に出てくる本のモデルは「告白」?
窪美澄さんも「さよなら、ニルヴァーナ」で、作中に作家を出して、
本人の経験談か、と思わせる事を話させますが、
そういうのって、読んでる方としてはどこまでが現実?と深読みしたくなって、落ち着かない気がします…(^_^;)
作家さんとしては、一方的に言われっぱなしだから、一度は吐き出したいとこなんでしょうかね?


どの話も予想の展開とは違う着地点を見せてくれるので、面白く読みました。
まあ、ブラックと言えばブラックではあるのですが、短編ですし、リアリティ感もやや薄いので読みやすいですね。
特に最後の連作が、一旦どん底に落とされるんですが、
最後、清々しさを持たせて終わるので、読後感が悪くないのがいいです。
もう少し湊作品を読んでいこう…。