駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『リバース』 湊かなえ

面白かったです!

何冊か読んできて、段々湊作品の読み方が分かってきたような…?
湊作品って、謎解き部分に引っ張られてついつい読んじゃうけど、
それに絡められる人物描写こそが醍醐味なのかなーと。
イヤミスの女王とか言われるけど、人の暗部を描いてひきつけるのが本当にうまいですよね。
オチに首をひねることがあったりするので、ミステリのオチをメインに読むとがっかり感もあるかもしれませんが、
人間描写をメインに読むとより楽しめそうな気がします。

<内容紹介>(amazonサイトより)
深瀬和久は、事務機会社に勤めるしがないサラリーマン。今までの人生でも、取り立てて目立つこともなく、平凡を絵に描いたような男だ。趣味と呼べるようなことはそう多くはなく、敢えていうのであればコーヒーを飲むこと。そんな深瀬が、今、唯一落ち着ける場所がある。それは〈クローバー・コーヒー〉というコーヒー豆専門店だ。豆を売っている横で、実際にコーヒーを飲むことも出来る。深瀬は毎日のようにここに来ている。ある日、深瀬がいつも座る席に、見知らぬ女性が座っていた。彼女は、近所のパン屋で働く越智美穂子という女性だった。その後もしばしばここで会い、やがて二人は付き合うことになる。そろそろ関係を深めようと思っていた矢先、二人の関係に大きな亀裂が入ってしまう。美穂子に『深瀬和久は人殺しだ』という告発文が入った手紙が送りつけられたのだ。だれが、なんのために――。
深瀬はついに、自分の心に閉じ込めていた、ある出来事を美穂子に話し始める。全てを聞いた美穂子は、深瀬のもとを去ってしまう。そして同様の告発文が、ある出来事を共有していた大学時代のゼミ仲間にも送りつけられていたことが発覚する。”あの件”を誰かが蒸し返そうとしているのか。真相を探るべく、深瀬は動き出す。



(以下、ラストに触れる記述あり。未読の方はお気を付けください)



主人公である、地味系男子・深瀬に同情したりイライラしたりしながらも、
彼の変化には感じ入るものがありました。
あれだけ過剰な卑屈ぶりを見せていた彼が、広沢の過去をたどる決意をし、
犯人捜しを自ら申し出るところは「おおっ」と思いました。
広沢の過去をたどる中で、彼自身も「同級生」の中での立ち位置を再認識していくんですね。
クラス内の格付けを社会に出ても引きずって、人とのかかわりを苦手としていた彼でしたが、
犯人捜しという名目で、初対面の人に次から次へと接触していきます。
私もどちらかというと自分から約束を取り付けるのが苦手なタイプなので、
積極的に情報を集めようとする彼の姿はまぶしかったですねー。
だから、最後にわかる広沢の、古川や深瀬に対する評価や、美穂子の気持ちは、
なんか救われるような思いがしました。
ただ広沢の「とうめい」のくだりはいまいち掴みづらかったですが…。
格下の人間と付き合うことで自分も下るっていうのに、ぴんとこなくて。
女性にはわかりづらいのかなと思ったけど、男性でも共感しづらそうな…?

ミステリのオチは途中からなんとなくわかったんですよね。
でも湊作品はオチより過程を楽しむのよね、と勝手に上から目線で読んでた分、最後にやられました。
「うわ、こう来たか」と。
本来、後味悪いのはあまり好きじゃないけど、
あそこまで鮮やかに決められると、「お見事」と思って、逆にすっきりしました。
(物語的にはいろいろ引きずっちゃうラストでしたけどね)
心理描写は、いつもの女性ものだとすごくリアリティを感じますが、
今回は男性主役のせいか、そんな共感は薄くて、作った感をどこかで感じていました。
でもそのおかげでブラックなラストも、素直にどんでん返しとして面白いと思えた気もします。
もし女性主役で自分をシンクロさせまくってたら、あのラストはショック受けそうだわ…。

今回は表紙からコーヒーですもんね。
コーヒーを小道具にしたこの物語、ハチミツを入れて甘くするのもいいけど、
やっぱり締めはブラックじゃないとね、ってひっかけてるのかと思いました。
さすが、コーヒーの後味は苦いよ、湊さん…(笑)