駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『エムブリヲ奇譚』 山白朝子

私は、「ホラーとグロイのは苦手」とずっと言ってきたのですが、これ読んで初めて気づきました。
「グロイのは苦手だけど、ホラーは場合によってはダメじゃないかも?」と。
怖いのはホント嫌なんです、おどろおどろしくて読みながら背後を気にしてしまうやつとか、ほんとダメなんです。
でもホラーってそういうのだけじゃないんですよね。
美しいホラーってのがあるんだ、と改めて気づいたわけです。
そういえば、乾ルカさんの「夏光」とか好きだったし、京極さんも皆川さんも好きだし、
ホラーっぽいの結構読んでるよね?と。
特に、和物の怪しい魅力はむしろ好きで、漱石の「夢十夜」なんか大好きなんですよね。
そんな私を、ぞくぞくっとする魅力で引き込んでくれたのが本書です。

とあるきっかけで、山白朝子さんの作品を読んでみたいと思い、図書館で検索したのがこの本。
(山白さんの本はこれしかなかった)
表紙が美しいんだけど、ちょっと怖い…。でも読後は、その中のエムブリヲちゃんがちょっとかわいく見えます(^^)(スピンが編んであるのは、図書館の人がやったのだろうか…?すごく短くなってる…)

<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
「わすれたほうがいいことも、この世には、あるのだ」無名の温泉地を求める旅本作家の和泉蝋庵。荷物持ちとして旅に同行する耳彦は、蝋庵の悪癖ともいえる迷い癖のせいで常に災厄に見舞われている。幾度も輪廻を巡る少女や、湯煙のむこうに佇む死に別れた幼馴染み。そして“エムブリヲ”と呼ばれる哀しき胎児。出会いと別れを繰り返し、辿りついた先にあるものは、極楽かこの世の地獄か。哀しくも切ない道中記、ここに開幕。「エムブリヲ奇譚」「ラピスラズリ幻想」「湯煙事変」「〆」「あるはずのない橋」「顔無し峠」「地獄」「櫛を拾ってはならぬ」「「さあ、行こう」と少年が言った」

和泉蠟庵が、ひょうひょうとしていいんですよね。
この世界をおどろおどろしいだけのものにしてなくて、愛おしさも感じられます。
彼の特技は強烈な迷い癖ですが、実は結構使い分けられるんじゃないんでしょうかね?
最後のお話では、「もう帰らないと」と言って、姿を消します。
彼が迷うというのは、例えば、気を抜けば川の流れのままに流されてしまうような感じかな、
と勝手に想像しました。
まあ、その部分は追及するのは無粋なところですけどね。
ただそう考えると、最後の話のラストで、蠟庵が子どもの時に助けた彼女との、再会直前で姿を消したのも、
彼の照れか遊び心か、そういう人間っぽい感情が見える気がして面白いな、と思います。
しかし、蠟庵先生はただお茶目なだけの人ではなく、
迷うのを、淡々と受け入れてる闇のような奥深さがあります。
耳彦君が死にそうな目に合う場所にも平気で連れまわすところなど、底知れない部分ではあるかも。
そんな蠟庵先生とともに、生と死の境目を行き来する中で見える風景を描く、お話たち。

幻想的で神秘的な作品群ですが、その雰囲気を壊さずに、じわりと人間の俗っぽさを描きます。
(しかし雰囲気を壊しかねないほどに、俗っぽさ全開の耳彦の存在はどうなんだろう…笑)
さまざまなタイプのお話がそろっていますが、通して読んでみて、どれも人や生への執着を感じました。
さまざまな強烈な心残りが、あの世とこの世を繋ぐのでしょうね。
ラピスラズリの幻想」の彼女は自殺をしてしまうけど、生を存分に知り尽くしたからこそ、その大切さを実感し、
大事な人へと繋ごうとしたのでしょうね。
「櫛を~」の彼の話は、母への執着を描いていて、百物語をして母に会いたかったのかなと思ったけれど、
最後まで読むと、いや逆かもと思ったり…。
息子以上に母の息子への執着を描いていたとしたら、本当に怖いですよね…。
しかし櫛を拾ってはいけないとは知らなかったです。そっか縁起が悪いのか。
あと、「地獄」はきつかったな…。前に読んだ、乙一さんの「SEVEN ROOM」を思い出しましたよ。
よくある、追いかけられる話も怖いですが、それ以上に、閉じ込められる、という感覚が苦手なので、
さすがにこの話だけは、読みながらちょっと後悔しました…(涙)

表紙の装丁の雰囲気そのままの、丁寧編まれた幻想的な世界。とても上質なお話を読めて満足。
ちょっと怖かったけど、読んでみてよかったです。とても完成度の高い作品集でした。
しかし、作中の蠟庵先生の旅本が非常に気になります。あれだけ迷いまくるのに、旅本、書けるのか!?