駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『アカガミ』 窪美澄

窪作品は、「生と性」というテーマで基本描かれているのですが、
結構幅広くいろんな手法でそれを見せてくれます。今回はなんとSF風に描かれています。

<内容紹介>(amazonサイトより)
若者の多くは恋愛も結婚もせず、子どもを持とうともしなかった。
彼らはひとりで生きていくことを望んでいた──。
渋谷で出会った謎の女性・ログの勧められ、ミツキは国が設立したお見合いシステム「アカガミ」に志願した。しかし、これまで異性と話すことすらなかった彼女にとって、〈国〉が教える恋愛や家族は異様なもので、パートナーに選ばれたサツキとの団地生活も不安と驚きの連続だった。それでもシステムに手厚く護られた二人は、次第に恋愛やセックスを知り、「新しい家族」を得るのだが……。
生きることの痛みと選択、そして輝きを見つめる衝撃作! 


設定がすごい。
一見とんでもなさそうなのに、読んでみると、現実にすごく差し迫った問題で、
こういう未来もあり得る?という気になってきます。
恋愛に淡白というか、無関心な若者が増えています。
地方自治体がせっせと婚活イベントをセッティングしてる昨今ですからね。
実際、私の知り合いが、作中に出てくる若い人たちと全く同じことを言ってましたもの。
生にも性にも執着がなくて、生きてる理由が分からない、云々…。

作中に出てくるこの「アカガミ」というシステムの至れり尽くせり感が半端ないです。
出会い、同居、妊娠、出産に至る過程で、手厚く支援してくれます。
これを読みながら、最近はその至れり尽くせり感をいろんなものに感じるよなーと思いました。
手ぶらでキャンプとか、温泉とか、釣りだとか、もうそこに行けば全部用意されてるし、
例えば、最近のベビー用品一つとっても、私の頃にはなかった様々な便利グッズが溢れています。
なんかもう自分で何も考えなくてもいい社会になりつつある感じですよね。
だからこの「アカガミ」システムは、一見トンデモなさそうだけど、
今の社会の先に存在しうる気がしてくるのです。

しかしこの究極の「アカガミ」システムにまでなってしまった理由の一つに、
現代のこの「至れり尽くせり」があるんじゃないかと思うのです。
世の中が便利さを追求して、人びとが何もかも用意されていることに慣れ、
受け身が基本になってしまった若者たちが、楽な方に流れ、無気力になっていったんじゃないかと。
そうすると「アカガミ」は大いなる矛盾なようで、なんだか痛烈な皮肉に感じてしまいます。

「結婚出産」という煩わしさには、意味があると思うんですよね。
相方を得る、子を得るということは、自分の存在を認めてくれる人ができる、
自分の役割ができるということでもありますから。
子はかすがいと言いますが、それは夫婦間を繋ぎ止めるかすがいという意味だけではなく、
現世に繋ぎ止める役割もあるように思います。
実際、先述の知り合いも、結婚出産したら以前のような愚痴は言わなくなりましたし。
(というか、言う暇も考える暇もない状態ともいう…)
誰しも「結婚出産」すべしと言いたいわけではなく、
世の中、昔に比べて選択肢が自由になりすぎて、変に楽な方向に流れてないかなと心配してしまうのです。

なので、作中の以下の言葉はとても印象深かったです。

「子宮は子どもを産むためにあると思うわ。その機能を使わなかった人間はね、狂っていくしかないんだわ。恋愛や、出産や、子育てに費やされなかった時間を甘く見てはいけない。その時間は女に必要なものよ。その時間が全部、自分にだけ向けられたとき女は狂うの。そういう女を私は今までたくさん見てきた。体にそれがある、ということは、何か意味があることなのよ」

ここでは女性のみについて言っているし、「狂う」だなんてかなり暴論ではあると思いますが、
「子宮には何か意味がある」という言葉は共感を覚えました。
結婚をして子供を産むという道は、過去から命を継いで生まれてきた人間としての、
一つの義務でもあると思うんですよね。
個人にはさまざまな事情があるでしょうから、一概に皆すべしだとは思いませんが、
楽な方に流れていきがちな現代社会で、「結婚出産」の選択肢をないがしろにしてしまうと、
どこかで手痛いしっぺ返しを食らう気がします。(すでに少子化問題とかおおごとになってますけどね)



(以下、少々ラストに触れた感想です。未読の方はご注意を。)



さて、この「アカガミ」システム。
何も考えないままにレールに乗って快適に過ごしていると、突然梯子を外されます。
でもそこから本当の人生が始まるんですね。
しかし、「さあ、これからどうなる?」ってとこで終わってしまって、ラストが中途半端でした。
まあ、こういうSFものはそんな感じになりがちですけど。
「アカガミ」システムの書き込みが足りなくて、
結局どういうシステムなのかイマイチ判明しなかったところが消化不良ですし、
話も途中でぶち切りのように感じましたが、まあ窪さんの言いたいことは描ききれたんだろうな。
ログって結局、何者だったんだろう…。

タイトルの「アカガミ」。
召集令状である赤紙を元にした言葉でしょうが、赤(ちゃんの)神もかけてるのかなーと思いました。
赤ちゃんを創り出すシステムですもんね。怖い怖い…。

窪さんにしては性描写がソフトで読みやすくなってましたね。テーマは相変わらず「生と性」なんですが。
そこに進歩というか変化を感じました。
もう過激な性描写のアピールがなくても、性を語れる立場を確立したんだろうなぁと。
まあ、個人的な勝手な感想ですが。

作品の完成度としては、当たり外れがある気がしますが…(^_^;)、
窪さんの書かれるテーマは私にとってとても興味深いので、これからもさらに追い続けます(^^)/