駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『島はぼくらと』 辻村深月

今回の主役は島ですね。…なんて、何を唐突にって感じですけど(^^ゞ
辻村さんは、人間の蓋してる部分を表に引っ張り出して描く作家さんというイメージでしたけど、
今回はちょっと印象が違いました。
物語の中心に、どどんと島が大きく存在してるんです。
冴島という瀬戸内海に浮かぶ離島があって、そこに住んでる人、逃げて来た人、やがて離れる人、
囚われてる人、尽くす人、守る人、守られてる人…と島に関わる様々な人たちの物語が織り込まれています。
物語の主人公である、高校生4人の目を通して、そんな様々な人たちの様子が描かれていきます。
優しいだけじゃない、島の暗い部分も描いているにも関わらず、物語がずっと爽やかな印象を失わないのは、
そんな透明な視点から描かれてるからでしょうね。
 
辻村さんの作品は数多くは読んでませんが、
この作品は、これまで読んだのとはずいぶん違った印象を受けました。
今まで心の内をのぞき込んで自分と対話するような話が多かった気がするのですが、
今回のは外に目を向けた作品でした。
島があって、そこにいるぼくらたち。
外に目を向ければ果てしない数の誰かと関わらなきゃいけなくなるような本土とは違う、
離島という限られた世界、限られた関係、限られた時間。
だからこそ、自分だけのことを考えて生きるわけにはいかなくて、
未熟を自覚しながらも必死に頭と体を働かせてもがく4人の高校生たち。
その真摯さ、懸命さが、清々しくてよかったです。
 
<内容紹介>
母と祖母の女三代で暮らす、伸びやかな少女、朱里。
美人で気が強く、どこか醒めた網元の一人娘、衣花。
父のロハスに巻き込まれ、東京から連れてこられた源樹。
熱心な演劇部員なのに、思うように練習に出られない新。
島に高校がないため、4人はフェリーで本土に通う。
「幻の脚本」の謎、未婚の母の涙、Iターン青年の後悔、
島を背負う大人たちの覚悟、そして、自らの淡い恋心。
故郷を巣立つ前に知った大切なこと――すべてが詰まった傑作書き下ろし長編。

この物語が心地いいのは、4人全員が島を否定してないから。
不便で、田舎特有のしがらみがあって、反発心を覚えずにはおられなそうなのに、
彼らはすごく柔軟に島のことを受け入れてる。
守られてるから、そこを離れる怖さもあるだろうし、
これまで包まれた温かさに、自分が成長して感謝したい気持ちもある。
島と自分との距離をつかず離れずで保ってる感じ。
多少は島に反発しながらも、激しく歪まなかったのは、多分この4人のつながりが、
表面上ゆるやかに結ばれ、かつ踏み込みすぎずにいられたことにあるんじゃないかな。
お互いが心のよりどころだったんだと思います。もちろんそれだけじゃないけれども。
高校を卒業したら別れることがはっきりとわかってるというタイムリミットありの付き合いというのは、
不躾にむやみに踏み込んでいくことなく、べたべたと際限なく依存することもなくて、
緊張した一線を守った、各々が自立した付き合いなんですよね。
島という環境が、そういう大人びた感覚を持たせるのかな?
そして、そんな中で生じる淡い想いは、なかなかときめきました(^^)
朱里のように、誰かの人生の心に留まるような言葉を言ってみたかった!などと夢見てみたり…(^^ゞ
島特有の「兄弟」という絆も、心奥深くでじっくり育むような結びつきがとても印象的でした。
 
そんなに分厚くない本ですが、読み返してみると非常にたくさんの話が盛り込まれてることに気づきます。
読んでるときは、そんなぎゅうぎゅうな印象はなかったのに。
そしてそんなたくさんのエピソードが散らばってるような散漫さも感じられませんでした。
ただゆるやかに時が進む過程を丹念に綴っていて、それが多くのことに触れていて、
話として一つに繋がっていってるこの構成は、辻村さんの巧さなんだろうなーと読後に改めて驚きました。
終盤の修学旅行からのエピソードはできすぎ感があるんですが、読むときは盛り上がったなぁ。
そして幻の脚本へと繋いでいって、じーんときました。
4人の視点で描かれていくのに、衣花の語りがなかなか出てこなくてなんで?と思ったら、
最後に出てきて、重要な役割を果たしてくれました。
彼女だけみんなと違う道だから、だったんですね。
その彼女の場面では、胸詰まるものがありました。
 
ぐいぐい引き込まれて読むというより、じっくりゆっくり読みたい本です。
きっと、辻村さんに「これが書きたい」という強い想いがあって、
その大事な想いでもって、丁寧に作られた作品なんだろうなと思える本でした。
将来に迷う中高生、子供を持つ母親、田舎暮らしを受け入れられない人、Iターンを考えてる人などなど、
いろんな人に読んでもらえる本だなーと思います。
読めてよかったです(^^)