駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『桐島、部活やめるってよ』 朝井リョウ

まさに鮮度命な作品。
この本に興味ある方には、急いで読んで!と言いたい。
刺身のように、時間がたてばたつほど鮮度が落ち、
魅力が下がってしまいかねないという賞味期限のある作品です。
でもまさに刺身のように、今でしか味わえない味は、
新鮮さゆえの魅力があるんですよね。

時代を反映する固有名詞を文章に入れることは、本来私はあまり好きではありません。
この作品にもいたるところに使われているのですが、この本においてはそれでもいいやと思えました。
それはこの作品が、そういう固有名詞以外でも、
彼らの言葉遣いといい、ファッション描写といい、まさに「今」を切り取った作品だからです。
今しか読めない作品だけど、その刹那さもこの作品の魅力だと思うので、ありだと思います。

内容(「BOOK」データベースより)
バレー部の「頼れるキャプテン」桐島が、突然部活をやめた。
それがきっかけで、田舎の県立高校に通う5人の生活に、小さな波紋が広がっていく…。
野球部、バレー部、ブラスバンド部、女子ソフトボール部、映画部。
部活をキーワードに、至るところでリンクする5人の物語。第22回小説すばる新人賞受賞作。

200P足らずの薄い本なのに、結構時間がかかりました。
それは、若者言葉や方言の台詞に慣れないこともあったのですが、
一文一文丁寧にかみくだくように読んだからでもあります。
読みながら、自分の同時期の経験も再現される文章というのは、
やはり表現力が高いのだと思います。
この本でも、読んでるうちに私の高校時代の、
そのとき肌で感じた空気や胸の痛みが戻ってくるようでした。
読みにくかったけど、好きな文章でした。

いやほんと読みにくいんですよ、慣れるまでは。
ぷつぷつと、読点で切れる文章。
それはマンガの、モノローグに現実の描写を挟む表現に近いと思います。
読みにくいけど、その場の主人公の思考と、現実をとてもリアルに描いていると思うんです。
高校生くらいだと、まだ自分時間と現実時間のコントロールがうまくない頃だと思うんですよね。
頭の中で物事を考えていて、その思考が完結する前に、
いきなり話しかけてきた友人の言葉でぶちっと中断されちゃったりするんです。
大人だったら、思考してる自分に対しても、現実に話しかけてきた相手に対しても、
要領よく対処できると思うんですけど。

短編連作形式。
同じ学校の、五人の高校生の視点からなるお話です。
学校という狭い空間を、クラスの目立つ子だったり、地味な子だったり、
男子だったり、女子だったり、いろんな角度から見る面白さがあります。
全ての話が緩やかにからみ合っていて、
同じ出来事でも視点の違いで、意味が違ってくることが面白かったです。
この構成はうまく作ってるな、と思いました。
男性の作家さんですが、女の子の一人称もよく書けてると思います。
女性作家さんが描くような「のぞかれるような怖さ」はなく、
どこか客観的ではあるんですが、頑張って書いてる方じゃないかな。

同じ表現が繰り返し出てきたり、価値観が画一的だと思われる部分もありましたが、
これがデビュー作ですし、上出来だと思います。(偉そうですね、すみません…)
朝井さんの感覚が好きなので、また違った風景を切り取ったものも見たいなーと思います。
次回作も是非とも読んでみたい、と思いました。
星は四つです。



余談。
週刊真木よう子』※を出してくるのはどうかと…(笑)
私も好きな番組でしたけど、わかりにくいタイトルだし、
知らない人には何のことやらさっぱりなのでは、と心配になっちゃいましたよ…。
あと作中のブラバンの演奏曲に「カルミナ・ブラーナ」があったんですけど、
あれって高校のブラバンでやるような楽曲なんですか?
大好きな作品ですけど、ブラバン知識がなく「えー?」って思いました。
どなたか詳しい方いらっしゃいましたら教えてください~。

※全話を通じて真木よう子が主演を務め、毎回異なった演出家・脚本家・共演者によって制作されたオムニバスドラマ。…ウィキより引用