駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『獣の奏者 Ⅰ闘蛇編 Ⅱ王獣編』 上橋菜穂子

上橋さんの作品の「守り人シリーズ」は、ほぼ読んでます。(最後のと外伝がまだ未読ですが…)
この作品でも同じ空気を感じました。
何というんでしょう、登場人物の「誰かにもたれることなく生きてる様」とでもいいましょうか。
誰にも頼らない、ってわけじゃないんですけどね、一人一人が自らの意思を持って、
一人で立とうとしてる凛々しさが、どのキャラにもあるんです。読んでると、背筋が伸びる思いがします。
この世界を描く緻密さもさすがです。
ファンタジーと言うと扉の向こうの別世界のイメージですが、
上橋さんのように詳細に衣食住を描いてくれると、
この世界と地続きでいつの時代にどこかで存在したのでは?と思えるほどのリアル感があります。
だからどこか現実味のあるこの「獣の奏者」の世界では、都合のいい展開を期待できず、
ハラハラしながら読み進めることになるわけです。
その予想に反することなく、本当に誤魔化しなしの苛酷な描写が続きます。
ほんと容赦ないなー、上橋さん…。
「守り人」はまだ児童書の枠内だったと思うのですが、今回は児童書の枠は取っ払った感じです(苦笑)

<内容紹介>(出版社HPより)
闘蛇編:リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた
罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂
飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指す
が――。
王獣編:カザルム学舎で獣ノ医術を学び始めたエリンは、傷ついた王獣の子リランに
出会う。決して人に馴れない、また馴らしてはいけない聖なる獣・王獣と心を通わせ
あう術を見いだしてしまったエリンは、やがて王国の命運を左右する戦いに巻き込ま
れていく――。

この本を読んで、『存在』とは?ということを強く思いました。
居場所を失い、「魔がさした子」「あってはならない存在」とされるエリン。
「堅き盾」として、自らの意思を捨てされたイアル。
「象徴として存在すること」に重きを置かれ、外に出ることすら自由にならない身である真王。
そして、圧倒的な力を持つことで、武器として用いられる闘蛇、用いられようとする王獣。
「自分は何のために生まれてきたのだろう」と存在を根本的に問う問題をそれぞれが抱えたと思います。
(闘蛇と王獣に関しては、人間の問題ですけど)
神の意志を問おうにも、きっと答えはないのです。
その立場を与えられ、抱えさせられた宿命は、神の意志によるものかもしれない。
だけど、自分の道を切り開くのは、自らの意思なのです。

紆余曲折しながら、皆が王国のたどるべき道、己を賭ける道を模索していく姿は悲痛なほどでした。
誰のために?何のために?
自分のために?他人のために?獣のために?国のために?
選択肢はいくつもあって、しかも究極の選択肢で、
だけど主人公エリンはどの分岐点でも誠実に己と向き合い、自分の納得いく答えを出していきます。
それが正しかったとか、間違っていたとか、そんなことを問えないほどに重い問題の数々です。
立場を変えれば、答えの正誤は変わり、誰が見ても正しい答えは存在しないのです。
だから、自分で考えることが必要なのです。
そしてエリンを始めとする登場人物たちは、
「生きていくこと」で「存在」を否定しないしなやかな意志を得、自分の道を見つけるのです。
 
強大な力を持つ闘蛇と王獣は、物語の中でとても魅力的な存在でした。
人間が、その力に目が眩んで利用しようとすると、手痛いしっぺ返しを喰らうという過去。
エリンが王獣(リラン)のためにと心を尽くして接し心通わせることで、歪んでいく世界の均衡。
人と獣のどうしても越えられない壁。
「正しく生きる」ということの在り難さを、容赦なく突きつけられる感じでしたね(汗)
 
エリンは、なんかチャングムを思わせる優等生。
できがよすぎで、成長の余地がない気が…(苦笑)
でもそのくらいできた人間じゃないと、この苛酷な運命は乗り越えられないのかな?
イアルはかっこよかったですねー。
セ・ザンという立場による葛藤も魅力でしたし、影を背負った感じに惹かれました。
シュナンも王子様な魅力が~。凛々しく、揺るぎなく、ちゃんとリアリストなところが素敵です。
あとやっぱリランが好きでした。「飛ぶ?」って言って可愛いし、でも凛々しくて。
最後のシーンは本当にうれしかったです。
 
4冊出てますが、この二冊は上下巻扱いですね。
のちに続編として出た『探求編』と『完結編』も繋がってるのかな?このあと一緒に借りてこよう…。
2010年9月には『獣の奏者 外伝 刹那』が発売予定だそうです。
 
ファンタジーはあまり得意ではないのですが(苦笑)、
そんな私でも面白く読めました。
星は四つです。