駄文徒然日記

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『1/2の騎士~harujion~』 初野晴

(ちょっとネタバレありかな。未読の方はご注意ください)
 
最初、結構すごい人物設定に戸惑ったんですね。
読みながらこんな変わった設定は必要なのだろうか、と。
でも読み進めるうちになんかわかってきました。
これは、マイノリティ(社会的少数派)のお話なのですね。
 
<内容紹介>(「BOOK」データベース)より)
母を亡くし、心に傷を抱える女子高生・マドカが恋に落ちた相手―それは最強の騎士『サファイア』。ふたりの出会いは、忍び寄る狂気―社会の片隅でひっそりと息づく異常犯罪者たちから大切な人、そして愛する街を守るための戦いのはじまりだった。大人への道程にいる、いまだ“不完全”な彼女たちを待ち受ける、過酷な運命とは…。透明感ある文章で紡ぎ出すファンタジックミステリー。
  
初野さんの作品はまだ数作しか読んでませんが、
男女の境や生死の境を曖昧にした作品が多い気がします。
きっと、これも一般人が正論振るって、マイノリティを制裁することをよしとせず、
犯罪者と断罪者を同じグラウンドにおくことで、そこに境界線を置きたくなかったのかなーと思いました。
 
主人公マドカは一見優等生ですが、心には闇を抱えています。
自分がマイノリティである自覚をとても強く持っていて、周囲と壁を作っています。
この作品では、主要人物以外は名前がありません。
何度も出てきて割と重要な役どころであっても、「園芸部の一年生」とか
「おさげの子」「ソフトカールの子」「前下がりボブの子」などと表記されています。
これはマドカの語りの物語だから、そう呼ぶのはマドカなわけです。
彼女らを自分とは違う「マジョリティ(社会的多数)」と認識しているのか、その他大勢扱いなのです。

ラフレシアの話で、サファイアが「マドカもラフレシアが化け物だと思うのかい?」と聞くと、
マドカは「人間よ」と答えます。
相手を見下すのではなく、真正面から向き合う彼女の姿勢は、凛々しくも、悲痛なものも感じます。
マジョリティより、犯罪を犯すマイノリティの方に親近感を覚えるのかもしれません。
身を削ってまで罪に向き合うマドカの姿勢は、この話に壊れそうな透明感と切ない痛みを与えています。
でも決して辛いばかりの話じゃないんですよね。
コミカルな会話やテンポよい筆致でその悲痛は和らげられて、くすぐったくなる温かみももたらしてますね。
温かいキャラクターや、前向きなマドカがとても爽やかです。
 
サファイアは、マドカが唯一無理が言える頼れる相手です。まさに困った時に助けてくれる騎士。
(密室に無能って設定が変わってて面白かったです)
実体はなくて何も手出しはできないのに、マドカの心に働きかける騎士の役割をはたします。
誰にも甘えないマドカだから、サファイアの存在が危うくなる記述は、本当に胸に痛くて痛くて。
 
でもこの作品は、最後に光を残してくれました。
自分の存在に自信を持てないマドカと、幽霊の体のサファイア
これは、半端な二人が一体となって、大切なものを守る話。
でも最後に二人の新たな出会いを仄めかして終わります。
本当の二人が向き合うことで、きっとそれぞれが、
自分の大事なものを守れる一人前の騎士へとなっていけるのでしょう。
 
事件や犯人像は、「池袋ウェストゲートパーク」を思い出しました。
(ドラマしか見てないんですけど)
現代の病んだ世界を、偏見だけで片づけることなく切り抜いた作品なのかな。
とても読み応えある作品でした。
トリックは「インベイジョン」が一番びっくりしました。
お話としては、「ラフレシア」が心に残ります。この話のマドカを見るのが一番つらかった…。
星は四つ。やっぱり初野さんは一味違うな~。