駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『友情』 武者小路実篤

作者名とタイトルしか知らない状態で読みました(苦笑)
タイトルからなんとなく、「走れメロス」のような熱い友情物を想像していたので、全く違う話でびっくり。
こんなに恋愛を語る話だと思わなかった…。
そして読んでみてその読みやすさにびっくり!
100P程度の薄い本なんですが、同じ厚さのカフカの「変身」や谷崎潤一郎の「春琴抄」などは、
なかなか進まなくて苦労したので、今回も時間かかるかなと覚悟してたんですよね。
でも実際は、続きが気になって気になって、時間が空くとすかさず本を広げてたので、すぐ読めちゃいました。
 
(以下、ネタばれを含みますので、未読の方はご注意くださいね)
 
大筋はほんと単純で、どこでもあるような三角関係の話なんですけどね。
野島、杉子、大宮のそれぞれの語りが非常に面白い。
物言いが非常に大げさなんだけど、すごく印象的で、
読み慣れてくると、よくぞそこまで言い切った!と清々しくなってきます。
 
特に前半の野島の語り。
恋する男の自分勝手な妄想がつらつらと書き綴られるわけです。最初ちょっと引きそうになったけど、
よくよく考えたら、人を好きになった時、自分に都合のいい想像だけなら私もやったと思うと、
野島の言い分にもどこか共感できる気がしてきて、こっちまで照れながら読む羽目になりました(苦笑)
 
例えば、野島の台詞。
  「貴き、貴き、彼女よ。
   自分は貴方の夫に値する人間になります。
   どうかそれ迄、他の人と結婚をしないで下さい」
一見、自分勝手な台詞でありながらも、彼女への想いが溢れんばかりで、
自分の未熟さを恨めしく思う悲痛な叫びにも聞こえます。
これが段々クセになってきます(笑)
 
後半に、杉子の本音が語られるわけですが、まるで野島と同じ言い分で笑えます。
恋する人間は自分勝手なのです。野島と杉子が自分の恋に身を焦がしてる中、
一人本音をぶちまけられず、あれこれ葛藤する大宮。
 
大宮がこの物語のキーパーソンですね。
彼の決断がこの三角関係に終止符を打つわけです。
一見、友情と愛を天秤に掛け、友より女を取ったように見えましたが、
よく考えたら、彼自身も「必然」と言っているように、この選択肢しかなかったようにも思えます。
彼がもし杉子に応えなかったとして、それでも杉子は野島を受け入れることはなかっただろうし、
下手したら、二人の友情への杉子の嫉妬が、更に野島の傷を深くすることになったかもしれません。
そうすると野島と大宮の友情さえ危うくなりかねません。
終止符を打つ、あの手段はどうかなとも思いますが…(苦笑)
 
ラストで、打ちひしがれつつも、どこか力強く、凛々しく、清々しい野島の姿は、
物語を高みに登らせているようにも見えます。
それまでは情けない男にしか見えなかったんだけど、最後カッコよかったなー、野島。
最後のシーンが一番好きでした。
 
でもちょっと気になるのは、大宮と杉子の今後。
こんなに情熱的に燃えて、大丈夫かな?途端に冷めちゃいそうにも思えました(苦笑)
でもきっと野島は大宮が言うように、この想いをバネにきっと立派に立ちあがっていくと思います。
 
この作品は、あらすじ見ても良さは決して分からないでしょう。
興味ある方には、是非ご一読をおススメします(^^)