駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『影法師』 百田尚樹

男の友情の物語というべきでしょうか。
でも時代物なので、かなりシビアです。
侍が無用になりつつある時代に、士としていかに生きるべきか模索する若者たち。
その時代背景をとても面白く読みました。
百姓一揆なども出てきて、この時代の農民の、侍の、そしてその家族の、
命のかけどころをまざまざと思い知らされます。

<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
光があるから影ができるのか。影があるから光が生まれるのか。ここに、時代小説でなければ、書けない男たちがいる。父の遺骸を前にして泣く自分に「武士の子なら泣くなっ」と怒鳴った幼い少年の姿。作法も知らぬまま、ただ刀を合わせて刎頚の契りを交わした十四の秋。それから―竹馬の友・磯貝彦四郎の不遇の死を知った国家老・名倉彰蔵は、その死の真相を追う。おまえに何が起きた。おまえは何をした。おれに何ができたのか。


(以下少しネタばれありかな。未読の方はご注意ください)


勘一(のちの名倉彰蔵)と彦四郎の二人の生き様を描いた話です。
文武に秀でた彦四郎は、全てに恵まれてるゆえにか、何事に対しても執着が感じられません。
そしてそのことを本人がとても自覚しています。
それでも多分彼は必死に、自分の生涯をかけられるものを探していたのでしょう。
嫡男でないから家は継げない、良家に婿養子に行くのを良しと思わず、
かといって惚れた女を連れて逃げるほどの情熱もなく…。
しかしそこで友の夢に光を見たのでしょう。
これこそ自分の生涯を賭けるに値すると、彼は悟ったのかもしれません。
勘一も、私利私欲に囚われる男ではありませんでした。
侍の矜持を忘れず、いつでも命を投げ打つ覚悟で、藩のために尽くします。
藩の将来を思う二人。
藩のために自分ができることを考えたときに、二人の道は全く真逆になってゆくのです。

…と、とても感動的なお話なのですが。
実は私は、この話にどっぷり入り込むことができなかったんですね…(汗)
外出で持ってまわる文庫本と、家でゆっくり読むハードカバー本を並行して読書する私は、
今回たまたま司馬遼太郎さんの本を並行して読んでいたんですね。
そしたら、百田さんの文章に薄っぺらさを感じてしまったのです。
以前読んだ「BOX!」ではそこまで気にならずに読めたのですが…。
百田さんの文章は、とても親切丁寧で読みやすいのですが、その分行間に染み出す余韻がないのです。
剣のシーンを一つとっても、司馬さんのようなはっとする鮮やかな描写がないのです。
百田さんにとっては初の時代物。
司馬さんと比べるのは酷なんですけどね…(苦笑)
ちょっと読む時期が悪かったかな。
全体的な淡々とした流れは良かったのですが、
ラストの真相を語る部分が、だらだらしすぎた感がありますね。
せっかくの感動的な部分ですので、もっと上手な魅せ方があったのでは?と思います。

星は辛めで三つ。
司馬さんを読んでなければ四つだったかもしれないんですが…(汗)
読みやすく、巧く書けてる作品だと思います。