駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『虐殺器官』 伊藤計劃

うわー、すごいな、これ。
(SFものってあまり読まないので、とんちんかんな感想になるかもしれませんが、ご容赦ください…)
 
<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
9・11以降、激化の一途をたどる“テロとの戦い”は、サラエボが手製の核爆弾によって消滅した日を境に転機を迎えた。先進資本主義諸国は個人情報認証による厳格な管理体制を構築、社会からテロを一掃するが、いっぽう後進諸国では内戦や民族虐殺が凄まじい勢いで増加していた。その背後でつねに囁かれる謎の米国人ジョン・ポールの存在。アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉は、チェコ、インド、アフリカの地に、その影を追うが…。はたしてジョン・ポールの目的とは?そして大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?―小松左京賞最終候補の近未来軍事諜報SF。

近未来軍事SFってことですが、非常に哲学的なお話で、
脳の話とか大好きな私には、とても引きこまれるものがありました。
生と死の境界線、そして生物と物質の境界線とは?と鋭く突きつけられた感じで、
存在するということの危うさを改めて考えさせられます。
科学が進化していくのに、倫理が追い付かない、そのグレーライン。
彼が母にしたことは罪なのか?
戦争における残虐な行為の罪の所在とは?
 
そして思考がどっちつかずで浮遊させられてる中で、さらに突きつけられる、衝撃的な視点。
 
「戦争が啓蒙である」
 
「言語は器官である」
 
文章自体は単純なのに、その示すところの奥深さ。
いや、奥深いというか底の見えない泥沼のような複雑で混沌とした恐怖をも伴う感覚でした。
一人の人間が、例えば戦争下で、駒の一つにすぎない矮小な存在であると思わされたかと思うと、
世界(自分の認識する)は、自分の意識下にすぎないということを思わされたり。
世界というものが自分の内外あちらこちらで展開して、言葉に丸め込められるかのように翻弄されてました。
とにかく常時、価値観や、常識や、倫理観を揺さぶられてました。
 
軍や戦争の描写も興味深かったです。
現在はこのシステムのどこまで実現してるんだろうと思わせるほどに、リアリティが感じられました。
(私が、そっち方面の知識が全く疎いのもあるでしょうが)
最新機器というと、私の貧弱な想像力だと金属ロボットのようなものを思い描くんですが、違うんですね。
筋肉繊維を使用してるんですよ。肉や血。なんかエヴァを想像しました。
サラエボの話とか色々リアルで、怖かったです。結局人間はどうやっても懲りないのかな、と思ったり…。
 
 
(以下、ネタばれかな。未読の方はご注意ください)
 
 
 
ジョン=ポールの虐殺の理屈もすごかった。
自分の群れを守る生物の本能に、自己犠牲や虐殺の器官が存在し、
『わたしの世界』を守るため虐殺の文法を利用したということですよね。
逆に、主人公クラヴィスは、母に「裏切られた」という思いが、個の否定へとつながり、
「『わたしの世界』以外の世界を守る」ということに、虐殺の文法の使用を踏み切らせたのかな。
(過度の母への意識は、愛情の欲求の裏返しだったのでしょうか?)
それはジョン=ポールよりも大きい群れ、地球という群れを自覚した行為でもあるわけですよね。
一人の人間という個が薄まれば、「わたし」が大きくなる、地球規模にもなりうる。
ああ、いろんな枠を取っ払われてしまう~。なんかやっぱり脳みそを翻弄される本ですね(>_<)

星は四つ。色々すごいんですが、私の理解が全然追っついてないです~。
是非もう一回トライしたいです。(そのときは外来語辞典を手元に用意せねば…(^_^;))
 
余談。
こんな圧倒的な話の中で、冒頭ですけど「フジワラという名前のトウフ・ショップ」の車が出てきてウケました(^^)
なんか場違いだ~。