駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『空をつかむまで』 関口尚

友人に薦められた本。
関口尚さんは初読みです。
 
良い作品でした。
最初読みだしたときは、トライアスロンの大会に出る話になっていったので、
青春スポーツものかなと思ったのですが、トライアスロンはメインというよりは一要素で、
中学生の友情、恋愛などを描いた作品でした。

<内容紹介>(amazonの紹介文を引用)
トライアスロンに賭ける少年たちの青春!
市町村合併を控えた、北関東のとある海岸近くの村。村に住む中学三年の優太・姫・モー次郎は、ひょんなことからトライアスロン大会に出場するはめに…ちょっぴりスラップスティックな傑作少年小説!
 
ありがちと言えばありがちなお話かもしれませんが、ちょっとビターな、一味違うものを、私は感じました。
きらきらした眩しいだけじゃない青春を描いています。
 
全くタイプが違う三人、だけどそれぞれ傷を抱えています。
自分に自信が持てない優太、家族の問題を抱えた姫(男です)、いじめられっ子のモー次郎。
無邪気な時代を過ぎた少年たちは、すぐさま相手の領域に踏み込むようなことはしません。
自分のテリトリーと相手のテリトリーを僅かに触れさせ合うような、微妙な距離感覚で付き合うんですよね。
でもそれじゃ相手が見えてこない。
「相手をもっと知りたい」という欲望がその一歩を踏み出させるわけです。
その青い時代で、踏み込もうとしたり、踏みとどまったり、引き返したり…という
ちょっともどかしいような心情なんかが描かれるわけですけど、その描き方に惹かれました。
登場人物と同じ若い年代にも、私のような大人な年代にも届く文章だなーと思ったからです。
 
中学生というのは、まだ存在が固まってなくて、外圧にとかく影響される年代なんですよね。
友人、親、先生など周囲からの外圧。
特に、身近な大人からの影響は大で、性格形成にまで関わってきます。
 
『ぼくらはどっかで、弱くて歪んでしまった大人たちのその歪みを、押し付けられているのだ』
と、作中で描かれています。だけど、大人のせいだけにするのではなく、
『歪んだ大人たちがつかめなかった生きるってことの楽しさを、僕らの世代が手にするのだ』
と、自分たちのやるべきこともちゃんと示してくれます。
 
「今の若い人は…」と大人は子どもに顔をしかめるんじゃなく、
「大人なんて…」と子どもは大人を遠ざけるんじゃなく、
この作品は、それぞれの世代自身に、自分の道を見つめ直させてくれるように思います。
相手を非難する前に、まず自分がやるべきことがあるんじゃない?と。
 
ただ、ヒロインの美月の人物造形がちょっとあり得ない気がして、共感しづらかったです…。
私の方が女心を分かってないのかもしれませんが(^_^;)
三人の中では、姫が好きでした。どうもヘタレ男に弱いんですよね…(^^ゞ
 
星は三つ。
四つにしてもいいくらいの良作だと思うんですけど、女性キャラに共感しにくかったり、
ちょっとわざとらしい演出があったりして、のめり込めない部分があったので、ちょっとマイナス…。
でも読んでよかったです(^^)