駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『木暮荘物語』 三浦しをん

本来、人間の本能からくる性を、感情的でなくて理性的に書くとこういうことになるのかな。
以前「天国旅行」という本で、「心中」をテーマにして実に色々な心中の形を見せてくれたしをんさんですが、
今回もセックスという題材を、色々な形で切り取って見せてくれました。

セックスという行為は、色々な意味があるのだと改めて思いました。
夫婦の営みであったり、愛情の確認であったり、子作りのためであったり、
性欲の現れであったり、大人への一歩であったり…。
 
セックスがテーマというとちょっと語弊がありますね。
セックスという題材を使って、人々の繋がりを描いた作品と言った方が正しいのかもしれません。
セックスという体の繋がりを題材として、その奥の心の繋がりのあり方を描いてるんですよね。
 
<内容紹介>
小田急線・世田谷代田駅から徒歩五分、築ウン十年、安普請極まりない全六室のぼろアパート・木暮荘。現在の住人は四人。一階には、死ぬ前のセックスを果たすために恋を求める老大家・木暮と、ある事情から刹那的な恋にのめり込む女子大生・光子。二階には、光子の日常を覗くことに生き甲斐を見いだすサラリーマン・神崎と、3年前に突然姿を消した恋人を想いながらも半年前に別の男性からの愛を受け入れた繭。その周りには、夫の浮気に悩む花屋の女主人・佐伯や、かつて犯した罪にとらわれつづけるトリマー・美禰、繭を見守る謎の美女・ニジコたちが。一見平穏に見える木暮荘の日常。しかし、一旦「愛」を求めたとき、それぞれが抱える懊悩が痛烈な哀しみとしてにじみ出す。それを和らげ、癒すのは、安普請であるがゆえに感じられる人のぬくもりと、ぼろアパートだからこそ生まれる他人との繋がりだった……。
 
木暮荘に関わる人たちの話を描いた短編集。
その中で、登場人物の視点が入れ替わることで、語り手だった人物の、他人から見た姿が描かれます。
それがとても興味深くて、面白く読みました。
視点が変わるだけでこの印象の変わりっぷり!
物事は本当に出来るだけ多角的に見なければなりません~(>_<)
 
しをんさんの文章というか、表現が私好みです。
登場人物の傍に立ちながらも、感情移入し過ぎない視点が非常に心地いいのです。
だからこんな生々しい題材を扱いつつも、さらっと書けちゃうんでしょうねぇ。
だけど、さらっと描きつつも、時折さくっと鋭い言葉も入れてきますからね。
心地いい中にも刺激があって、本当引き込まれてしまう。
 
それぞれのお話の感想を少し…。
(ちょっとネタばれありかな?未読の方はご注意を)
 
 
「シンプリーヘブン」
並木、好きすぎる~。彼氏向きではないけど、こういうキャラに弱いんですよね、私。
そして伊藤さんの反応も素敵だなぁ。繭ちゃん、こんないい男二人に囲まれてうらやましすぎます!
神崎に言わせれば「地味な女性」なのになぁ。
 
「心身」
人との繋がりって、年を経ていくごとに、希薄に淡泊になっていく気がします。
それに抗うように性欲を燃やしてみる老人、木暮さん。愛おしいなぁ。
人と接するのをつい面倒くさがってしまう私は、木暮さんの姿に、
もっと人に対して貪欲にならねばなぁと思わされました。
学生時代はうっとおしいほどに周りと密着してたはずなのに、大人になるごとに距離ができてくるんですよね。
物分かりがいいことが良いということではないんですよね、きっと。
 
「柱の実り」
前田の「どうしてやつらは見て見ぬふりをするんだ?」という言葉は胸が痛いです…。
私きっとこのキノコ見つけても、そば寄らないだろうなぁ。
それは周りに対する体裁を気にすることであったり、
変なことに関わりたくないという予防行為でもあったりするのですけど。
美禰は、過去に「見て見ぬふり」をして罪意識に苛まれています。
このキノコは、その罪の意識の発露だったのかもしれません。
そしてこのキノコによって、美禰と前田、そしてジョンとミネが繋がっていったんですね。
 
「黒い飲み物」
女性は男性に比べて、安定志向が強い傾向にあると思います。
体で繋がっていることで得られる安心感は、逆に繋がっていないと不安に思えたりするのでしょう。
子どもができれば、それが繋がりの認識にもなるのだろうけど。
女性の嫉妬は、きっと純粋な愛情からじゃないんだろうなぁ。
他の女性に対するプライドであったり、自分の生活の安定のためだったりするのかもしれない。
そんな女性のちょっと怖い部分を描いたお話でした…(^_^;)
 
「穴」
変態な神崎さんが好きでしたね(笑)実際いたら絶対嫌なのに、なぜか愛嬌を感じてしまう。
これは、しをんさんマジック??
人間、タブーに弱いですからね。ダメと言われると逆にやる気になるというか。
そう言えば、本を読むという行為も、のぞき見に近い感覚ありますよね。
三者になって外から見ると冷静に判断を下せるのに、
当事者になるとどうしてああも物事が見えにくくなるんでしょうね…(>_<)
本を読みながらいつもそう思ってます~。
 
「ピース」
だらしない大学生に見えた光子視点のお話。
何も知らないのに、他人を簡単に評価してはいけないなと思わされます。
「八日目の蝉」(角田光代)じゃないけど、生みの親と育ての親はどちらの絆が強いんだろう。
血の繋がりは、一番強い絆でありうるのだろうか?
そんな、関係の不確かさを感じました。
 
「嘘の味」
心の繋がりと体の繋がり。繊細すぎて、そこをどさくさに出来ない二人のお話。
でもその分、丁寧に丁寧に相手に干渉していく様は、魅力的でした。
恋愛するなら、こんな風に歩幅が一緒の人だと、長ーく幸せに続くんじゃないかな。
誠実な並木くんがやっぱりいいなぁ。実際には絶対付き合えないけど…(笑)
 
星は三つ。
しをんさん、様々な切り口で描かれるのがすごいなーと、改めて思いました。