駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『マルガリータ』 村木嵐

天正遣欧少年使節について書かれた本ということで、手にしました。
留学中のお話かと思ったら、その後について書かれてるんですね。
それはそれで、興味深く読みました。
宗教と政治の絡みはちょっと理解しきれなかったかもしれませんが(^_^;)
それでもとても読みやすく面白かったです。
 
<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
戦国末、ローマに派遣された天正遣欧少年使節。八年後に帰国した彼らを待っていたのは「禁教」
だった。四人の内、ある者は道半ばで倒れ、国外に追放され、拷問の中で殉教する。だが、千々石
ミゲルだけは信仰を捨てた。切支丹の憎悪を一身に受けながら、彼は何のために生きようとしたの
か?ミゲルの苦悩の生涯を、妻「珠」の目から描く傑作。
 
天正遣欧少年使節とは、ローマへ派遣された使節団のことです。
セミナリヨ(司祭・修道士育成のための初等教育機関)で学んでいた四人の少年たちが選ばれ、
その選考基準は容姿端麗であり、長旅に耐える健康を備え、
語学や勉学においてすぐれていることだったそう。なんと兼ね備えた方たちなんだ…。
そんな四人は、華々しい経歴を持ちながらも、最後は不遇の中で死を迎えることになるんですね。
 
そしてローマに渡った4人のうち、なぜミゲルだけが帰国後に棄教したのか。
この本は、その謎について描かれています。
実際はその理由は不明ということになってますが、
本当にこうだったらいいのに、という理想がここでは描かれていました。
不幸な結末は史実ですので変えられませんが、そこに至る流れが事実を押さえながら、
読んでて無理なく入ってきてよくできているな、と思いました。
 
珠がミゲルを想い、ミゲルが珠を慈しむ様子がとても温かく、
またともに南蛮に渡った仲間たちの、友情厚く相手を思いやり合う描写が、非常に胸を打ちました。
相手に向かって「何も案じてはいない」と信じ切れる台詞は本当に泣けました。
信じること、思いやることの尊い美しさが、ここで描かれています。
 
ただ、珠とミゲルの関係はちょっと複雑でしたね(^_^;)
「珠さえ傍にいてくれれば私は生きていける」とまで言ってくれたのに、
いざ友人の危機だと知ると、あっさり珠を置いて行ってしまうミゲル。
何と薄情な、と思ったのですが、ミゲルにとって珠の存在は、
愛する妻というより、自分を信じてくれる信者のような存在だったのかな、と思いました。
珠はミゲルを通して神を信じていたわけで、珠にとって天主教より、断然ミゲルの方が大事でしたから。
だから珠の前で、ミゲルは神のように清く正しかったわけです。
珠はとても大切な存在に変わりないけど、自分と共についてきてくれるより、
その身を大切にしてほしいと、手放せる存在だったのでしょう。
そしてジュリアンたち仲間と、伊奈姫は、司祭を目指すという目標を叶え合うための、
同士のような存在だったのかなぁ、と。
何も言わなくても同じ天主教を信じているから通じる、と信じあえる仲間。
友情を描く場面は数多くはありませんが、その言葉の端々に共に異国へ渡って、
支え合って過ごした年月の濃密さが窺えました。この留学時代のお話も読んでみたかったなぁ。
 
信仰に篤い様子はそれなりに描かれてるんですけど、なんか天主様の存在感が薄いんですよねー。
天主様より、四人の友情の方が大事?って感じで。
結局、苦しい時にミゲルを支えたのは、天主様じゃなくて、仲間だったのかな、とか思っちゃうんですが。
そこにちょっと物足りなさを感じてしまったのですが、
ミゲルの棄教の謎を主題とした時に、あまり信仰部分を描くと物語が別物になってしまうのかな。
読みやすくするためにはこうあるべきだったのかもしれませんね。
 
ちょっとしか出てこないんですが、「人たらし」秀吉の描写が好きでした。
私のイメージに近くて、「あーこんな感じ~」と面白く読みました。
 
タイトル「マルガリータ」は真珠のことを指しています。
輝きを丸い球に収めたこの真珠は、きっとミゲルの大切なものの象徴だったのだと思います。
それは、珠のことであり、伊奈姫のことであり、そして輝ける南蛮での日々の事であったのでしょう。
 
星は三つ。歴史物という堅苦しさはなく、とても読みやすい作品です。