駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『終点のあの子』 柚木麻子

読みました、柚木さんのデビュー作です。
先日読んだ、あっまーい「あまからカルテット」とは、がらりとテイストを変えた、苦い辛いお話でした。
でも引き込まれるように読んじゃいましたよ。
女子の繊細で身勝手な心情が、細やかに描かれていて、ちくちく痛んだけど、魅力的でした。
こういうの読むたびに、「嫌だよなーこんな思考」と思いながら、
でもその感情に覚えがある自分もいて胸の痛い思いをします。
若いってイタイよなー。でも避けられない痛みですよね…。
 
<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
プロテスタント系の私立女子高校の入学式。中等部から進学した希代子と森ちゃんは、通学の途中で見知らぬ女の子から声をかけられた。高校から入学してきた奥沢朱里だった。父は有名カメラマン、海外で暮らしてきた彼女が希代子は気になって仕方がない。一緒にお弁当を食べる仲になり、「親友」になったと思っていた矢先…。第88回オール讀物新人賞受賞作「フォーゲットミー、ノットブルー」ほか全4編収録。
 
好きと嫌いは、紙一重。何かのはずみでオセロの表と裏が変わるように、ぽんと感情が真逆に変わる。
その様子が次々と描かれます。
 
「フォーゲットミー、ノットブルー」
周りと一緒のことで安心するタイプの希代子の前に現れた、好き嫌いをはっきり表現するタイプの朱里。自分のないものばかりを持っている朱里に、みるみる心を奪われていく希代子。やがて自分がやれないことを、自分の替わりにやってくれる存在のように思えて、彼女と一緒にいることにのめり込んでいくが、そうすることで違和感も感じはじめる。やがてとあることをきっかけに、「憧れ」が「恨み」に変わる。
自分が思うくらい、相手からも思われたい。そして憧れの存在は、常に自分の理想であってほしい。多分そういう思いが募って、現状がそれにそぐわなくなってくると、破壊衝動に襲われるのでしょう。傷つけて傷ついて、人は一つ成長するのでしょうね。
 
「甘夏」
自分の枠をはみ出してみたくて、勇気を出して学校では禁止されているバイトをこっそり始める森ちゃん。
知らない世界を見てみたい、男子とも付き合ってみたい。
新しい世界は、刺激的で、色んな事を教えてくれる。
それは素敵なことであったり、汚いことであったり。
知らない世界を知ることは、一つ、夢を壊すことでもある。そしてそれと引き換えに現実を知るんですね。
ふわふわしてた理想が、きちんとした形となって自分の中に出来上がるんです。
痛い思いもするけれど、大事な過程なのだと思います。
 
「ふたりでいるのに無言で読書」
同じクラスメイトでありながら全く世界の違う二人が、ひょんなことから交流が始まる。
美人で派手なタイプの恭子さんと、読書好きで地味でオタクな保田。
お互いの知らない世界を覗くのは魅力的で、じわじわとその魅力に引き込まれる。
このデコボコ感が何とも言えず素敵で、好きなお話でした。
タイプの違う人と接することは、自分を客観的に見ることにもつながるんですね。
彼女たちのこの夏の出来事は、この先、新しい人と接していくときに、大きな財産になるのだろうな。
保田が本好きということで、本のタイトルが色々出てくるのが楽しいです(^^)
普段、本を読まない人におススメ本とか考えるのって楽しいですよねー。
中でも、これに出てくる『危険な関係』という本は、
宝塚の舞台になった「仮面のロマネスク」の原作となったお話で、
(本は未読ですが(^_^;))知ってる登場人物たちの描写に嬉しくなりました(^^)
 
オイスター・ベイビー」
朱里が大学生になった時の話です。この話だけが違和感があって、ちょっと受け入れがたかったです。
でもタイトルの「終点のあの子」は朱里のことなのだろうし、一番成長できてない人物だったということで、
未熟な部分は仕方ないのかな?
伝えたいものが感じられない、と作中に何度かいう彼女。
多分、感じられないのは彼女の方なんだろうな。誰かが伝えようとするものを全て拒絶してきたのでしょう。
傷つくのが一番怖かったのが彼女かもしれません。
それでも傷ついても見ない振りして、見たくないものに蓋をしてきて、
だからどんどんみんなに置いてかれちゃったのかな?
 
好きだと思うと自分のものにしたくなる。自分のテリトリーに囲い込みたくなる。
だけど他人は自分の思うようにならない。
自分と違うから魅力的に見えるのだけど、そのことにはなかなか気づけなくて、
自分の囲おうとする枠からはみ出ようとする相手を見ると、憎らしく思えてくるのだ。
好きだったはずなのに、気づけば憎らしく思ってしまう。
だけど関係を切りたいわけじゃないのだ。
嫉妬だったり、すねてたりするだけなのだ。
だけど、そんなひんまがった感情は関係をこじらせるだけで、やがて決別へと向かう。
そんなお話たち。
だけど「終点」は終わりじゃなくて、折り返し地点なんです。
今来た道と別の線路に乗ってもいいし、元の場所に戻ってみてもいい。
引き返せば、相手はきっと待っててくれてるはずなんですね。
そんなことを思わせてくれる本でした。
 
4編からなる短編連作形式。同じクラスの中で、主人公となる人物がそれぞれ変わっていきます。
最初の三編はすごく面白かったけど、最後の語り手である朱里がどうしても好きになれませんでした…。
美人じゃないのに魅力的だということで、「姫」と周りから呼ばれてちやほやされるんだけど、
そういう惹きつけてやまない魅力みたいなのが、私はあまり感じられなかったんですよね…。
それがちょっと残念でした。
 
星は三つ。
途中の三編を読んだ時は「これは星四つだ!」と思ったんだけど、
朱里の話でちょっとトーンダウンしてしまいました…(^_^;)
でも先日読んだ、「あまからカルテット」とのギャップには驚かされます。
こういうちくちくリアルなのも、フワフワ甘ーいのも書くんですねー。
これから注目の作家さんですね。