駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『破軍の星』 北方謙三

私が北畠顕家にハマったのは、『日野太平記』でした。
といっても、ご存知の方は少ないでしょう。
それは「徳川生徒会」というサークルさんの出した同人誌なんですね。
確か、NHK大河の「太平記」をきっかけに出された本で、日野俊基を主役にした本でした。
そこで出てきた顕家に、惚れ込んだのです。
今思えば、大河以外にこの本もベースになっていたのだろうと思われます。
(本が手許になく、読んだのもずいぶん昔なので、確認はできませんが…)
なにせ、当時読んでハマった顕家像が、そのままこの本の中にありましたから…。

前のブログにも書きましたように、北畠顕家なる人物、
眉目秀麗、文武両道、品行方正…誉れの四文字熟語は片っ端から当てはまりそうな、
完璧青年でした。
しかし、「佳人薄命」という余計な熟語にまで当てはまってしまうんですね…。
私が好きな歴史上の人物は、大津皇子北畠顕家土方歳三ですが、
どれも若くして亡くなってしまいます。
早世の人物に惚れてしまうわけではないのですが、
やはり、才能を持って生まれたのに、大事を成しえず去っていく姿に、
激しい未練を覚えてしまい、想いを引きずってしまうのかもしれません。
顕家が陸奥から上洛し戦い抜く姿は、北へと向かう歳さんに通じるものがある気がします…。
大きな時代の転換期に、二人は流れに抗うのです。

この本で、顕家は圧倒的な才を持ち得ながら、時代に敗れてしまいます。
尊氏にあった運が、彼にはありませんでした。
彼はどうして敗者になってしまったのでしょう?
あの見識の高さがあれば、時代を読み、もっとうまく立ち回れたかもしれません。
敗因には、公家に生まれた立場もあったでしょうし、
新田の失敗もあったでしょう。
父親房の教えが根底から覆すことができぬほどに、
染みついていたこともあるかもしれません。

本では、彼はお坊ちゃまでありながら、お高くとまることなく、
周りの人間のことや、民のことを考えられる人物として描かれています。
実際に彼が出した上奏文を見ても、公家出身であっても身分に頼ることない、
公平で冷静な視点で状況を判断できる人物像が浮かび上がってきます。

物語では、周囲の人間の立場を汲んで、自分がどう立ち回るべきか、
彼は冷静に判断します。
他人にきちんと目を向けられるさまは、非常に魅力的に映ります。
しかし明晰すぎる頭脳は、彼自身を第三者の立場から見ることができるのです。
そこに敗因があったのかな、と私は思いました。
明晰な頭脳も、卓抜した軍才も、立派な家柄も、すべて持ち得ていた顕家。
何かの不足を補おうとする渇望が、彼にはなかったのかもしれません。
自らの欲に従い、がむしゃらに事を起こすようなことは、彼にはありませんでした。
常に冷静で、誠実でした。
そして自分のためではなく、周りの人間のために、
自分という駒を動かすことができたのです。
「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」
恵まれすぎた才能が、彼を不幸にしてしまったのでしょうか…。

ううっ、思い入れが強すぎて、長文になってます…。

顕家と六ノ宮との関係も、この本ですごく好きな個所です。
いつも厳しいことばかりいう顕家なのに、
幼い六ノ宮はきちんと従い、顕家を慕います。
すごく顕家に憧れがあるのでしょうね。
六ノ宮と接する顕家がとても切なく映るのは、
自分の心のままに振る舞えないからなのでしょう。
六ノ宮と接する顕家の姿に、葛藤があるように思え、
顕家の本音の姿を垣間見られるような気がします…。

長々と語ってしまいました…。
北方謙三さんの本は(多分、初めてかな)
簡潔な文章でとても読みやすく、
登場人物が非常に魅力的に描かれています。
顕家の男っぷりも、最高にカッコよく描かれていて、垂涎ものでした!
さすがハードボイルド作家さんです。
新田義貞の扱いが少々不憫ではありますが、
足利兄弟の曲者ぶりとか、面白かったです。
もっと他の本も読んでみたいですね。