駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『星やどりの声』 朝井リョウ

朝井さん、やっぱり好きだー!と一行目読んだ瞬間に思いました。
冒頭、牛乳を飲む描写が独特に描かれ、それだけで結構満足だったのに、
読み進めると、その牛乳自体にも深い意味があって、うーんと唸らされてしまう。
言葉のセンスはデビュー作から光ってたけど、
色んな小技も効かせてくるようになったなぁなんて思っちゃいました。
 
<内容紹介>(出版社HPより)
 一家の大黒柱の父が、四年前に病気で他界した早坂家。それ以来、純喫茶「星やどり」は母が切り盛りしている。父が残してくれた、「星やどり」自慢のビーフシチュー、夜空から星が降り注ぐ星型の天窓。そしてブランコ形の席には、常連客の“ブラウンおじいちゃん”が、今日も静かに座っている。
 早坂家は三男・三女、母ひとり。長女・琴美は、働きながら、「星やどり」で母の手伝いをしている。長男・光彦は、大学四年の夏、実らない就職活動の真っ最中。二女・小春は、化粧で背伸びし、どこか空虚な日々を送り、三女・るりは、何かから逃れるように自らを律し、真面目な高校生活を過ごしている。二男・凌馬は、輝かしい少年の日々を、明るく消費。そして、三男・真歩は、カメラをぶら下げ、街を歩く……。
  様々な葛藤と悩みを抱えた早坂家。一見穏やかな日々が流れているようだったが!?

男子でも女子でもなりきって、リアルに繊細に描きだすのはさすがです。
ため息ものの描写の連続に、朝井さんの文章がたまらなく好みだと痛感いたしました。
もう好きすぎて、なんでもない場面で泣きたくなる。
色んな背景が頭を横切って、胸がきりきり痛むのです。
 
何よりお父さんの存在。
今はもう亡くなってしまった父を、家族全員がまさに囚われるように、想っている。
愛情を超えた執着に近い感じで。
その描写にいちいち泣けてしまった。
家族一人一人の指の先まで沁み渡ってしまったお父さんの存在の深さに敬意を感じつつ、
早く解放されるといいのに、とも思わずにおれない。
だって、みんながお父さんを愛しすぎていて、切ないんだもの。
心の支えになるはずの存在が、重しになっているようで。
 
でも最後には、呪縛のような想いはほどかれる。
自分で自分を雁字搦めにしてしまってる家族たちは、それをようやくほどいて、
それぞれ自立の一歩を踏み出すのだ。
家族とは、常に一緒にいなくちゃいけない相手じゃなく、いつでも帰ってこれる居場所なのだ。
心に帰る場所をきちんともつことで、一人で飛び立てるようになるのだ。
 
きょうだい6人がそれぞれ主人公の、6章からなるお話。
視点が変わると、人が変わる。きょうだいでも、他人なんだなーとこれを読んで思う。
家族だからこそ、照れくさくて本当の自分を出しづらかったりするのかな。
 
なかでも「真歩」の章が好きでした。
好きと言うか、一番切なかった。
ハヤシくんも、カメラも、笑わない理由も。
 
ただ、4章まではがっつりハマりこんで読んでたんですけど、
5章くらいからちょっと心が離れてきて、最終章は実は結構冷めた感じで読んでしまいました(^_^;)
一番ぐっとくるはずの章なのにね。
今までちょこちょこふりまかれた謎がきちんと終結する最終章。
それがあまりにきれいに作られすぎていて、リアリティを失ってしまってるんですね。
物語としては、そういうのも大いにありなんですけど、
私は朝井さんのリアリティ溢れる描写のファンなので、
最後、物語の作ってる感が見え見えになって、リアリティが薄れると、途端に冷めちゃったんですよね…。

あと琴美や、両親にあまり共感できなかったのもあります。
学生のきょうだいたちは、ああ、こういう人いそう、ってすごくハマりこみながら読めてたのになぁ。
最後の章は、なんだか登場人物たちにぴんときませんでした。
朝井さんがまだ親になってないから、と言ったら失礼でしょうか?
でも多分、最終章で不満抱いてるのって私くらいだろうなぁ(^^ゞ
 
星は四つ。
とにかく文章が非常に大好きなのと、
見事にまとめ上げた感動作だと思うので(私は感動しそこなっちゃったけど…)。
やっぱり好きな作家さんですね(^^)
これからも追いかけていきます☆