駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『何者』 朝井リョウ

面白かったです。朝井さんにはかなり贔屓目なので、ファン視点の偏った感想かもしれませんが、
今回もうまいなー、すごいなーとうならされました。

就活を舞台に描く物語。
就活そのものとは縁遠い私ですけど、そこから透けて見える人間模様は、私にも突き刺さるものでした。
作者本人、現在の超氷河期の就活まっただ中に身を置いた経験からなるリアルな描写に加え、
それを冷静に見つめる客観的視点がものすごい。
就活同年代の人が、そこまで自分らを突き放したところから見れるのかーと驚きました。

私も就職氷河期組でしたが、現在の就活の方がかなりシビアですね…。
ネット時代はツールが全然違って、進行が断然早い。すごいスピード感。
それで以前と比べるとかなりの数こなせる分、作業に追われる感じもすさまじいし、
その分、落とされる経験も桁違いになるので、その人間否定感たるやいかばかりかと思います。
(一社落とされただけで、すごいダメージ食らうものなぁ…)

そのネット世代にとって、SNSやツイッターもなくてはならないツールで、
その描かれ方がまたすごい。
私はそういうものをほとんどやらない人間なので、今現在の若者とネットの姿を知りませんでした。
ちょっと前に言われてた、「返信が滞ると人間関係にひびが入るからと、風呂場にも携帯を持ち込む」
という感じかなと思っていたら、それがさらに進化してるのですね!
友人関係を繋ぐだけじゃない、いろんなところに対して、
自分という人間を表現していかねばならなくなっているようです。

140字のプロフィールで自己アピールできなければならないこと、
ツイッターでの自己実況中継によって理想の自分を周りに知らせること、
友達とリアルでもネットでも密にしてそうでいつつ、匿名でネットに本音をさらすこと…。
そうやっていくつもの自分を使い分けているんですよね。
友人と一緒にいるところをその場でツイートしてたり(しかも周りに気づかれずに)、
会話途中でもケータイいじってても問題なかったり、
ツイッター情報で友人の行動をチェックしたり、
そういうイマドキの感覚に驚いて、そしてすごく窮屈さを感じました。(私が年だから?)
色んな自分を使い分けてるようで、ものすごく振り回されてるような…。
そんな自己表現だらけで、がんじがらめで複雑な環境の中、
自分の評価結果とも思えてくる就活が加わってきたら、そりゃ人間パンクするわ!と思えます。

就活によって歪められる人間性を、この作品で描いているとも言えるでしょう。
これまでさわやかな後味だった朝井さんにしては、
今作では人間の黒い部分があちらこちらでさらけ出されて、
読んでてチクリチクリと痛い思いをさせられます。
私だって、ツイッターはやらなくても、こうやってブログやってますからね。
人から見える自分というものを、意識しないことはありません。
ここに出てくる若者たちに驚きつつも、次第に自分と共通する部分も多く見えてきて、
痛い自分もひしひしと感じてしまうわけです…(^_^;)

星は四つ。
作品が出るたびに、朝井さんの作品には経験にともなった変化があって、
追いかける身としては非常に楽しいです。
やはり好きです、朝井さん(^^)