駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『光圀伝』 冲方丁

良かったです!
例のごとく返却期限に追われて読んだため、最後一気読みになっちゃって、十分な感想が書けそうになく、
そこは大いに不本意なんですけど…(>_<)
しかも返却して随分たっちゃったしね…(^_^;)感想は読了後すぐに書かないといけませんね~。
 
天地明察」に続き、この本でも何度も泣かされちゃったなぁ。
だけど、どこかぽかぽかした温かさと、ラノベチックな軽やかさがあった「天地明察」とは一変、
がらりと様相を変えて、今回はかなり重厚な歴史物っぽくなってました。
しょっぱなから、ずずんと重い。
光圀が歳を経るごとに、身に背負っていく苛酷な信念と決意は、
読み進めるほどに深く重く心の中に沈んでゆきます。
しかし彼が向き合う葛藤の、その重み、苦しみ、苦味にぐぐっと惹きつけられてしまうのです。
彼を指して「虎が泣いていた」といい、畏怖しながらもその見事さに目が離せない姿は確かに虎そのもので、
獰猛さを前面に出してくる強烈な冒頭場面から一気に引き込まれてしまいました。
 
<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
なぜ「あの男」を自らの手で殺めることになったのか―。老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎で、誰にも語る
ことのなかったその経緯を書き綴ることを決意する。父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。
血気盛んな“傾奇者”として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑か
れ、水戸藩主となった若き“虎”は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す―。生き切る、とは
こういうことだ。誰も見たこともない「水戸黄門」伝、開幕。
 
光圀は、かなり強烈な逸話を残す方のようですが、
その破天荒ぶりと後半に名君と称えられる人物に違和感を持たせずに描ききった冲方さんに感服。
光圀の思考の中では、彼の言動に矛盾は感じられなかったです。
若き日の「世子」という立場に悩み、父との葛藤があり、兄へのわだかまりを抱え、
未来への道筋を探す模索があり、それを血と涙を流しながら超克して行く様は、
痛々しくもあり、猛々しくもありました。
なんというか傷だらけの人生だよなぁ…。その分、強くも優しくもなってゆくのだけど。
 
歴史物を読んでいて、早世した人の物語は無念な気持ちでいっぱいになりますが、
長生きした人の話も辛いものがあるなぁと思ってしまいました。
長い彼の人生は、たくさんの出会いを得て、そして大事な人との別れを幾度も重ねることになるのです。
覚悟を持って生きる彼に理解を持ってくれた人たちは、彼を支え、彼を高めていきます。
「如在」という論語の言葉が何度か出てきますが、仲間を失ったのちも、
まさに「いますがごとく」に彼はみなで道を歩んでいくのですね。
その思いが描かれる場面はどこも涙してしまいます…。
 
特に、泰姫との別れが一番つらかった…。
彼と切磋琢磨しながら高め合う人の中で、無条件で彼を受け入れる存在でした。
この物語の中で、彼女が一番好きだったなぁ…(涙)
そののちの左近の存在も得難い人物ですね。冲方さん、男性作家なのに、
男性受けする様な媚びた女性じゃなく、同性受けのよさげな精神的に自立した女性を書かれますよねー。
前作に引き続き女性キャラがとっても魅力的です。
その他にも個性的で、脇をがっちり固めてくれる人物が並びます。
強敵と書いて「とも」と読む(笑)読耕斎。
光圀と渡り合うには、このくらいの相手でないとって感じのはみだし具合がとてもいいです。
そして、何者ですか、仏様ですか?!な兄・頼重。
光圀と頼重の対話には毎回ぎゅーっと切なくなるものがありました(涙)
その他にもたくさん魅力的な人々が出てくるのですが、手元に本がないのでこの辺で…(^_^;)
 
冒頭場面の、家臣を光圀の手で殺したことは史実で、その真相は謎だということですが、
その理由を見事に描いたなぁと感心しました。
天地明察」で関和孝を憎めないライバルとして描かれたような、冲方さんらしさを感じました。
御三家として徳川家の盤石の構えを築くべしとする光圀と、対立してしまった家臣とのラストは、
今、大河ドラマで幕末を見てるから、色々複雑な思いがしました。
 
天地明察」の主人公・晴海も少し出てきます。二人の対面が、今度は光圀側から描かれていて楽しめました♪
 
冲方さん、次回は清少納言を書かれる予定とか…。また次回作が待ち遠しくてなりません~。