駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『君の名残を』 浅倉卓弥

源平狂いの私には、どストライクの本でした!!!
あまりにも登場人物のみなさん素敵すぎて、話も素晴らしすぎて、
途中から読み終わるのがもったいなくなって、図書館本の間にちびちびと読み進めました。
(結局、読み始めてから二か月かけました…)
ああ、でも読み終わってしまった…(涙)
 
<内容紹介>
涙の名作『四日間の奇蹟』で『このミス』大賞を受賞した浅倉卓弥。待望の第2弾は、激動の平安末期を舞台
に壮大なスケールで描く衝撃と慟哭の絵巻。前作を超える圧倒的な物語(エンタテインメント)が展開される。
 「作者は、この受賞後第一作で自らに課した高いハードルを、完璧にクリアしてみせた。新人離れした大い
なる飛翔力に嗟嘆の意を表したい。《時の意志》に翻弄される若い男女を通して、愛する者を救うとはどうい
うことか――を、渾身の筆致で紙上に映し出している。万感胸に迫るラストは、まさに涙なくしては読めない。
時空ファンタジーに新たなる金字塔を打ち立てた感涙の一作だ。」 茶木則雄(書評家)
 
 
切ないっす。
もう全編切なさ全開って感じです。ずーっとショパンの別れの曲がエンドレスで流れてる感じです。
評判の高い本なのは知ってたけど、タイムスリップものだと思ってなめてたなぁ…(^^ゞ
SFファンタジー色は確かにあるけど、これは歴史ものと言ってもいいくらいの重厚さがあります。
それでいて、現代人が主役だからとっつきやすいし、恋愛要素も満載だし、でも軽くなくて読み応えたっぷり。
確かに高評価になるわ、これ。

高校生たちが源平時代にタイムスリップするという導入ですけど、
そのSF要素を歴史ものを描くことに、実に巧みに使われていて驚かされました。
この本は、有名な歴史舞台を利用した安易なタイムスリップ物ではなく、
源平時代を読み解くために、あえてSF要素を使った歴史小説とも言えると思います。
タイムスリップした高校生たちは、簡単に歴史を変えることはできません。
時代は川の奔流のように、怒涛に流れていくのです。
作者のこの時代への思い入れが半端なくて、どの人物も大変魅力的に描かれますし、
歴史考察もかなり詳細に描かれています。
もちろん創作部分も多いですけど、どのエピソードもこの舞台にふさわしく、切なさいっぱいで読みました。
 
タイムスリップした三人が歴史上の人物になってしまう、ということで、
友恵と武蔵はわかりやすかったんですけど、志郎がなかなか分からなくて…(-_-)
義経は九郎だし、頼朝は三郎だし…と(笑)
 
でもこの三人をこのように振り分けるなんて、ほんと絶妙。
途中でタイムスリップしたわけが解明していくあたり、その巧妙さに唸ってしまいました。
友恵と武蔵は歴史の知識は教科書程度ということで、自分らが詳細を知らないいくつもの選択肢で迷わせ、
逆に志郎は歴史好きということで、自分たちの役割、平安末期から武家社会へと移るこの転換を、
マクロな視点から読み解いてくれるというこの采配が実に巧妙でした。
 
そして友恵と武蔵が、行く道の先の悲劇を知っている中で、自分の役割を必死で悩み考え、苦しむ姿は、
このタイムスリップゆえの切なさであり、やがて悲劇的結末を迎える英雄たちに共に添うようでもいて、
ほんと読んでて切なかったです。
でもそこがよかった。
数々の人が悲劇的な結末を迎えるこの時代で、その悲運という苦しみと必死で向かい合う友恵や武蔵が、
それを呑み込みながら前へと進んでいく様はわずかな光を見るようでもありました。
彼らたちの死は無意味ではなかったはずだと。
 
木曽義仲は、不運な人でありました。
木曽の山猿などと言われて、粗暴なイメージがありましたが、ここではかっこよかったなぁ。
彼なりに懸命に真摯に己の道を行くはずが、様々な問題に晒され、苦悩して、
そして非難を受けるのもやむを得ない展開になってしまったのが、居たたまれない…。
周りの家臣たちも素敵でしたし、トモエとの結びつきも、切なさに胸痛めまくりでした(T_T)
ときめいたといえば、義仲の子の義高と、大姫の二人も良かったなぁ。ほんと泣けましたよ…(涙)
それ以外のどの恋物語も涙涙でした。
お涙ちょうだいな演出は結構冷めがちなのですが、この時代に私が思い入れがあるせいなのか、
浅倉さんの思い入れが、これでもかと込められた描写のせいなのか、とにかくがっつりはまり込んでました。
あまりに丁寧に描かれるせいで、P数が膨れ上がってますけど、私は必要な枚数だと思ってます(笑)
(文庫版上下で、それぞれ500P超え)
まあ、義仲にも義経にも別に正妻がいたはずなのに全然出てこなかったな、とか少し思いましたけどね~。
義経は奥州逃避行の際に、正妻を連れてたはずなんだけど…。
でもま、義経といえば静だし、義仲といえば巴ですものね。
 
出番は少ないけれど、重盛がかっこよく描かれててよかったー><
重盛大好きなのに(大河で惚れた)、彼は源平合戦の前に死んじゃうから、
彼がメインの本とかないものねー(涙)
死んだのちにも何度か名前が出てきて、みんなから偲ばれるのがまた涙…。
彼が生きてたら、平家の行く末も違ったものになってたかもしれないのになぁ。
知盛の視点で語る源平合戦も、壇ノ浦まで目に涙滲ませながら読んでましたよ…(だって平家贔屓だもの)
 
源氏も平家もみなさん素敵に書かれる中、唯一悪い役を担ったのは源行家でした。
彼はこの時代の主要人物全員と絡みがあるという、キーマンでもありますもんね。
彼についてももうちょっと掘り下げてみたいなぁ。
 
巻末に、筆者がこの作品を書くにあたって、特に多くの影響を受けたと断り書きがあり、
そこに司馬遼太郎さん、永井路子さん、手塚治虫さんの名前が並んでいました。
どのお方も私の大好きな作家さんじゃないかー、
とこの本の、自分の過度なはまり込み方に納得いったのでした。
作中、怪しげに出てくる大きな鼻が特徴の人物が「火の鳥」を連想させるなーと思ったんですよね。
道理であの死生観もなじみやすかったわけだ。
 
 
(少々ネタバレ気味での感想を少し…)
 
 
 
歴史に残る義経の大胆な戦法は、斬新とも卑怯とも言われたりするわけですけど、
この作品の設定からすれば、その発想を弁慶に出させる方が自然だったと思います。
(当時の常識を無視できる立場ですものね)
でも浅倉さんは、弁慶の義経への関与は剣の技術にとどめました。
浅倉さんは義経の戦法を評価されてたのかな。
もしくは歴史の改変を最低限にしたかったのかもしれません。
(巴にもあまり口出しさせませんでしたし)
そういう、せっかくのタイムスリップを利用しないところも、私は好ましく読みました。
人によってはもどかしく思うかもしれませんけどね。
避けられない運命、だけど彼らは流されるだけじゃない。
「今を生きている」のです。
例え命を絶たれたとしても、歴史に残らなくても、彼らの踏みしめた足跡はその時代に深く刻まれ、
現代へと続く時代の礎となっていくのです。
 
 
 
 
ああ、まだまだ書き足りない気もするけど、もうずいぶん長くなっちゃったな(^_^;) 
平家物語」をベースにたくさんの人物の視点で描かれる、この物語。
最初に出てくる主人公たちをメインにして読むと、散漫な印象を受けるかも知れません。
この本の主役は「時代」だと思います。
多くの人々の視点から浮かび上がる「源平時代」を、SF要素あり、恋愛要素あり、
そして歴史ものとしても楽しめるこの本で、ぜひ堪能していただきたいなーと思います(^^)
源平にハマってない方も是非是非~♪おススメです(^^)