駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『ハピネス』 桐野夏生

久しぶりの桐野さん。子育て世代の話ということで気になって読んでみました。
桐野さんのどぎつさに少し抵抗がある私としては、今回のソフトめな内容は読みやすかったなぁ。
ファンの人には、物足りなさもあったかもしれないけど…。
 
<内容紹介>
三十三歳の岩見有紗は、東京の湾岸地区にそびえ立つタワーマンションに、三歳二カ月の娘と暮らしている。
結婚前からの憧れのタワマンだ。
おしゃれなママたちのグループにも入った。そのリーダー的な存在は、才色兼備の元キャビンアテンダントで、
夫は一流出版社に勤めるいぶママ。
他に、同じく一流会社に勤める夫を持つ真恋ママ、芽玖ママ。その三人とも分譲の部屋。しかし有紗は賃貸。
そしてもう一人、駅前の普通のマンションに住む美雨ママ。
彼女は垢抜けない格好をしているが、顔やスタイルがいいのでいぶママに気に入られたようだ。
ある日の集まりの後、有紗は美雨ママに飲みに行こうと誘われる。有紗はほかのママたちのことが気になるが、美雨ママは、あっちはあっちで遊んでいる、自分たちはただの公園要員だと言われる。
有紗は、みんなには夫は海外勤務と話しているが、隠していることがいくつもあった。
そして、美雨ママは、有紗がのけぞるような衝撃の告白をするのだった……。
「VERY」大好評連載に、新たな衝撃の結末を大幅加筆!

私はママ友の密な付き合いはあまりしないので、共感というには少し遠いんですけど、
わかるなーって思うとこはたくさんありました。
モンスターペアレントとか、クレーマーとか騒がれてる昨今ですけど、
そんなのウソみたいに、ママ友が集まる現場ではいい人だらけ。
やんちゃな子がわが子に乱暴しても
「うちの子に何すんの!!」って声を荒げるようなママさんは滅多にいません。
「大丈夫ですよー。○○ちゃん、元気いいねー」ってな感じなんですよね。
そういう過ぎるほどに気遣い合う関係が、ここではよく描けてるなーと思いました。
気遣いまくりのメールの文面とか、すっごいリアル…(^_^;)
 
最近では、普段は人当たりよく、物腰柔らかく接しあうような人が、ある一線を超えると、
モンスターペアレントやクレーマーに一変したりします。(この作品ではそういう場面はありませんけども)
普段、溜め込み過ぎてる反動が、学校や会社などを相手にすると一気に噴出するのでしょう。
なぜなら当事者である一個人の相手より、不満を言った時に、受ける傷が少ないから。
学校や会社はあからさまに一個人へ文句を言い返したりしないでしょうから。
だからこの作品でも、タワマンのラウンジで、自分勝手に過ごすよそのママさんたちにちょっと不満を感じても、
誰も直接文句を言いにはいきませんでしたもんね。
そういう個人対個人の衝突を避けたがる母親たちの下地が、
実によく見えるなーと思いながら、読んでました。
この本で、表立った修羅場シーンは描かれません。そこになんかリアリティを感じました。
 
タワマンが舞台のせいか、見栄の張り合いはちょっとびっくりしましたね。実家までも偽るのか…(^_^;)
そういうのは経験ないなぁ。セレブなお付き合いがないからかなー?
お受験のピリピリも、そういう土地柄ではないので、いまいちピンときませんでした(^^ゞ
ただ見栄を張るというのとは少し違うのかもしれないけど、
周りのママさんたちの育児熱心ぶりに、自分のダメさ加減を思い知らされる経験はよくするので、
有沙が、育児での罪悪感にかられる場面はすごく共感しました。
周りのママたちの「きちんとしたしつけ」とか「手作りおやつ」とか目にするたびに、
できてない自分を責めたり、落ち込んだりしちゃうんですよねー(-_-)
でも有紗は気づくんですよね。いろんなみんなの裏事情を知った後に、「みんな必死だったんだな」と。

母子で閉じ込められた育児という空間は、自分だけがそこでもがいてるような気になってしまうけど、多分、
余裕で素敵にお母さんをやってるように見える周りの人たちだって、見えないとこでは必死に頑張ったり、
同じようにもがいたりしてるはずなんだと。
タワーマンションという舞台がその孤独感をさらに強調してますよね。
失敗を特に嫌悪する今の子育て世代は、弱いところを外に見せないように必死に取り繕うから、
誰もかれも「いいお母さん」で、お互いのプレッシャーが半端ないよなーと思います。
 
お姑さんさんたちの気遣いぶりも、あるあるーと苦笑しながら読んでました。
イマドキのお姑さんたちは子育てがひと段落して、人生を満喫してらっしゃる方が増えましたよね。
そして昔は嫁姑関係は厳しかったから、自分はそうならないようにしようと、
お嫁さんに理解のある姑さんが増えてますよね。
それでもどうしても溝は取り除けず、ぎくしゃくしちゃうんですよね(^_^;)
うまくやりたいのに、なかなか難しい嫁姑関係…(-_-)
でも身内だけにもっと厄介だったりする、実母との関係もよく聞く話です…。
 
みなさんの抱える事情はちょっと特殊すぎて、誰かにすごく親近感を覚えたり、
共感するということは少なかったですが、その分「お話」ということが強調されて、読みやすかったです。
あまりに自分と近すぎるような描写だったら、胸が痛すぎて読めなくなりそうだものな…(-_-)
だけど、表立った衝突を避けたいがために、遠回しや遠慮で、
より本音から遠ざかって身動きがとりにくくなってる現代の母親たちの様子はよく表れてるなーと思いました。
しかし有紗の話はちょっとどうだろうーって思いますね(^_^;)
話さなかった有紗にもびっくりだけど、旦那さんの対応にもびっくりだわ…。
あと親しくなっても、○○ママってあんなに呼び合うものですかね?
あまり周りで見ない気がするんですけど…。
 
桐野さん、こんなライトな(桐野さんにしては)お話も書かれるんですね。掲載紙の関係でしょうか?
あんまり強烈なのは私には厳しいけど、もう少しクセが強そうなのを読んでみたくなったな。