駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『炎環』 永井路子

永井路子さんや司馬遼太郎さんなどの歴史小説を、
いつか読もうと思ってちょこちょこ買いだめているのですが、
図書館本を優先してしまって何年も積読本になってます(^_^;)
源平にハマったのを機に気分が歴史モードになってきたので、
今年はそれをどんどん消化していきたいと思います(^^)/
 
というわけで、この『炎環』。
この本は昔読んだはず、と思ったのですが…。
 
<内容紹介>
京の権力を前に圧迫され続けてきた東国に、ひとつの灯がともった。源頼朝の挙兵に始まるそれは、またたく
うちに、関東の野をおおった。鎌倉幕府の成立、武士の台頭──その裏に彼らの死に物狂いの情熱と野望が激
しく燃えさかっていた。鎌倉武士の生きざまを見事に浮き彫りにした傑作歴史小説直木賞受賞作。

「悪禅師」「黒雪賦」「いもうと」「覇樹」の四編。
 
これ、最初の「悪禅師」だけ読んだ覚えがあったんです。でもその先の記憶がない…。
多分、この時代がよくわからなくて、途中で読むのやめちゃったんでしょうね…(^^ゞ
頼朝はわかっても全成とか知らなかったしなぁ。今なら今若、乙若、牛若と言えますよ♪
でも源平時代はだいぶ覚えてきたけど、鎌倉幕府成立以降となると途端に全く分からなくなります…(^_^;)
ですから、この短編も源氏側の全成、景時の話は読みやすかったけど、
北条側の保子と四郎の話はちょっとついていきづらかったです(^_^;)
だけど実朝暗殺あたりはやはり裏で色々動いてそうなのが興味深いです。
もっと他にも読んでみようと思えました。
 
では、短編について軽く内容紹介を…。
鎌倉幕府成立ごろを中心に四つの短編が描かれます。
 
阿野全成の視点から兄・頼朝を見る「悪禅師」。
あの天才武将・九郎義経相手に、源氏の棟梁という立場を崩すことなく、
実に慎重に手を打っていく頼朝の底知れない雰囲気が怖いです。
 
梶原景時は何を思って頼朝に仕えたのか…「黒雪賦」。
全成が頼朝の心を汲みつつ、あえて黙していたのに対して、
頼朝の望みを汲みとり、ひたすらに泥をかぶった景時。
なかなかいいイメージを持たれない彼ですが、この作品の景時は達観してて素敵でした。
 
「いもうと」。北条政子の妹であり、阿野全成の妻となった保子はどんな思いで政子を見ていたのか。
「悪禅師」で無邪気に見えた保子の、本当の姿が垣間見えるとき、ぞぞっとします。
政子さんはどちらかというと男性的ですからね。女の怖さというのは保子にこそ見て取れる気がします。
 
父・時政の期待に応えられず、何も功を挙げられない義時。
しかし大事な場面で「血眼になって探しても、その場にいたためしはない」。
姿を消して黒子に徹するかのように、彼は無言で時代を動かした──「覇樹」。
永井さん一押しの四郎義時ですよ。
ただ実朝暗殺あたりの知識が乏しいので、ちょっとノリ損ねました…(^_^;)
 
何とも言えない異様な雰囲気を持つ作品集です。
誰か一人の意志で時代が動くのではないというのを、
この4編をうまく絡ませることで、浮かび上がらせているようです。
貴族気質の平家は地位の高さが力の象徴という感じで、
トップを中心に一族が比較的まとまってるイメージですが、
武力こそが力の象徴ともいえる源氏となると、身内殺しや同士討ちが絶えません。
倒したもの勝ちなので、お互いが虎視眈々と上の座を狙っていて、
常に自分以外はみな敵という緊迫感に包まれてる感じです。
だからそれをまとめる頼朝は慎重に動かねばならなかったのだろうし、
圧倒的武力を誇る義経は危険分子として排除されてしまったのでしょう。
そんな源氏サイドのお話なので、誰もが自分の主張を明確にせず、
腹の探り合い、心の汲みあい、心理戦のような無言の戦いがあちこちで起こるわけです。
武士の世と言えど、その先駆けであるこの時代は、戦国時代とはまた違った主従関係ですね。
本当の真意は晒さずに読者には匂わせるのみ、というのが永井さんらしくて、
じれったさを感じつつ、その余白を楽しむ永井流が、この作品ではとても生きてる気がしました。
 
この作品で直木賞受賞なんですよねー。作品の質の高さに受賞は納得なんですが、
こんなマイナーな歴史舞台で直木賞とれるのかぁ…なんて思っちゃいました。
直木賞が何たるかもよくわかってないんですけど。
関係ないですが、今年こそは直木三十五を読みたいと思います!)
ですから、派手さはないのですが、永井さんらしく歴史上の人物を生々しく、人間臭く、
しかし作品はとても品よく描かれていて、とても深みを持った本になっています。
歴史好きな方には是非読んでいただきたい作家さんです(^^)