駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『絵巻』 永井路子

永井さんの本です。
扱ってる時代、そしてゆるく繋がる短編連作っぽさから、
以前紹介した「炎環」の姉妹本って感じでしょうか。

<内容紹介>(裏表紙より)
栄枯盛衰のめまぐるしい源平時代、その裏には、後白河法皇の不気味な存在があった。そして彼の周囲にもまた、権力にこびへつらいながらも、たくましく現実に根をはっていく個性豊かな人間の姿があった。かわらぬ人間の欲望と、変転きわまりない“時代の流れ”を“絵巻”に準え、かつての独裁者入道信西の子であり冷徹な観察者でもある静賢法印の“日記”を“詞書”とした連作小説。

平家台頭期から鎌倉前期へかけて、時代を下っていく5編の短編があり、
その合間合間に信西の子である静賢法印の日記(筆者オリジナル)が綴られています。
そしてそのそれぞれが、互いに織りなすように複雑に絡まっていくのが実に見事で、
「炎環」再び、という感じで感嘆いたしました。
とは言っても、それを十分に堪能できたかと言えば、そうではなく、
あれだけ源平源平騒いでるというのに、
ここに出てくるメインの人ほとんどよく知りませんでした…(-_-)
今回の軸となるのは後白河法皇で、彼のことはわかるんですが、
その周りの藤原何ちゃらとか知らない人ばかりで、
天皇側の話はまだまだ不勉強だなーと実感いたしました。
後白河法皇は軸ではありますが、主人公ではありません。
その周りの人たちがメインで描かれています)
それでも面白く読みました。さすが永井さん!!

『すがめ殿』
これはさすがにわかるので面白く読みました。
清盛のお父さんである平忠盛とライバル源為義のお話。
この忠盛の造詣が何とも言えない。
冒頭から「ふひゃ、ふわ、ふわ、ふわ・・・・」と怪しく笑ったりして、
すっとぼけていながら、知らぬうちに着実に平氏の足固めをしていくのが恐ろしい。
それに振り回される為義が本当にお気の毒…(^_^;)

『寵姫』
後白河法皇の寵愛を受けた丹後局のお話。
女性というものは、時によって立場によって相手によっていろんな顔を見せるもの。
何も考えていないようで、実は計算尽く?な女性は、永井さんの作品ではよく見られます。
さて、彼女の献身ぶりはいったい誰のためのものであったのか…。

『打とうよ鼓』
鼓判官平知康のお話。平と言っても平家側の人間ではなく、後白河の側近だった人。
義仲とひと悶着起こし、義経に近づいたりで、自身何度も解官されるのですが、そのたびに復活。
最後はちゃっかり鎌倉方に潜り込んでたりする、なにげにすごい人です。
ここで描かれてるのは、ちょっと天然系な感じ?

『謀臣』
女性関係を巧みに利用して、ひらりひらりと鮮やかに立場を変えていき、
やがて大きな権力を持っていく源通親
これという主義があるわけでなく、「これから来そうだ」という人を敏感に嗅ぎ当てて、
うまく取り入っていく。
その柔軟な身のこなしこそがこの宮中では一番の武器になるようですね。

『乳母どの』
前作の通親を見てきて、彼のやり方を引き継ぐのが、後鳥羽天皇の乳母、藤原兼子。
九条良経の怪死をめぐって、様々な駆け引きが行われる。
その回りくどさと言ったら!
でもそのくらい婉曲かつ粘り強くないと、この宮中では残っていけないのでしょうね~。
そこに加わる北条政子さまも、また負けてない強かさで素敵です。

そしてこれらの話をゆるく繋ぐように「静賢法印日記」が挟まれます。
当事者に近い視点で語られた話が、冷静な静賢から見るとこうなのか!というギャップが非常に面白い。
だから歴史って一方方向からだけじゃダメなんだ。主観と客観にこんなに差があるんですもの。
もうね、静賢の冷静すぎる視点が怖いほどですよ…。

あと、表現が見事。
「若葉の季節とはおそろしいものだ、と思う。
こんなにも多くのいのちが、無言で自分をとりまいていたのか、とぎくりとさせられる。」
この普通じゃない感覚に、当時の不穏な空気(平家没落)や、
彼(静賢)の冷め切った性格が見て取れるようで、ぞわっとさせられました。
他にも女性ならではな感覚が、司馬さんなどの歴史ものと全然違うのが面白いなと思いました。

平家物語」が土台のお話ばかり読んできたせいか、源氏や平家の人ばかりに目が行っちゃって、
京の方々には興味が向かなかったんですが、こちらはこちらで様々な策略が繰り広げられ、
とても面白いことになってたんですね。
それが源平合戦などに色々影響をもたらしているのも興味深い。
謀略はいかなるところでも行われるものですが、宮中でのそれは直接対決的なのはなくて、
妙に遠回しで回りくどい手段だったりして、武家の血なまぐさいのとは全然違うのが面白いです。
一番落としたい敵にこそ、いい顔を見せて一旦は取り込んだり、すごく気長で運任せな段取りだったり。
源平合戦平氏と源氏が互いに刀を交えてた時に、京ではこんな争い事が行われていたんだなぁ…。

永井さんは、古代史関連で読むことが多かったのですが、
鎌倉時代が一番お得意のようで、たくさん作品を出されているようです。
私は、平安末期と鎌倉末期が好きなので、ちょうど鎌倉時代は私のとって穴になるのですが、
源平時代から繋がっていく時代なので、ボチボチ読んでいって、穴を埋めていきたいなーと思います。