駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『いとみち』 越谷オサム

越谷さんの「階段途中のビッグノイズ」が超王道で、でもすっごく好きだったんです。
今回は、メイド服の女の子が三味線持ってるという、ちょっとビックリな感じな表紙ですが、
中身はやはりがっつり王道でした!
基本、ちょっと歪み気味な話が好きな私ですが、
時にはこういうどっかり安心感のあるお話で癒されるのもいいものですね♪

超引っ込み思案な主人公いとちゃんが、メイド服着たさと自己改革に奮起するため、
なんとメイドカフェで勤めだすというお話。
表紙で三味線持ってるから、メイド服で三味線がメインのお話かと思ったら、三味線も絡みはしますが、
大筋はメイドカフェ奮闘記でした。(ラストでがっつり三味線演奏しますけどね)


<内容紹介>(出版社HPより)
お、おがえりなさいませ、ごスずん様……日本代表クラスのドジッ娘メイド、武器は訛りと三味線、だべ!
高校一年生の「相馬いと」は、ちっこくて人見知りで極度の泣き虫。三味線には自信があるけれど、濃厚すぎる津軽弁が劣等感(コンプレックス)で、コミュニケーションが大の苦手。今年、人生史上、最大の冒険始めます。本州最北端のメイドカフェでアルバイト開始! ああでも、やっぱす、わぁには無理だぁ! 津軽の夏、グルーヴィンな青春小説!


外から見てると、別世界のように見えて、自分と接点なんてまるでなさそうに思える世界でも、
実際踏み込んでみると、思ってたよりずっと普通で、
自分の知る世界とほとんど変わりないことを知って、拍子抜けだったり、ほっとしたりするってこと、
私にもよくあるよなー、とこれ読んで思いました。
メイドカフェなんて入ったことないので、「どんな人が行ってんだ?どんな人がやってんだ?」って
戦々恐々としてしまうんですが、この作品ではスタッフもお客さんもみんないい人だらけ。
まあ実際はまた違うのかもしれないけど、でも多分私が想像してるよりは普通なんだろうな~。

偏見だけで何かを遠ざけるって、きっと人生や社会にとっていろいろ損なことなんでしょう。
特殊と思われて、周りも当人たちも互いに壁を作っちゃってるようなのは、
お互いに生きにくくするだけなのかもしれない。
多数派じゃないジャンルでも、もっと発信していくべきだろうし、
マイノリティーももっと自分たちだけで固まるんじゃなくて、
もっと多数派の中で広く活動していけるといいんだろうな。
私が今行ってる職場もちょっと特殊なとこなので、そういうことをすごく痛感しました。
メイドカフェではないですよ・笑)

いとちゃんもこの本の中で、偏見を持つ家族との橋渡しを見事に果たすわけです。
大事なことは、きちんと知ること、そして知ってもらうこと。
そのために、まずは勇気を出して一歩踏み出すこと。
そうすれば、踏み出した側も踏み出された側も、互いに世界が広がっていくんですもんね。
いとちゃんはメイドカフェに踏み込んだことをきっかけに、親子の理解が広がったり、
過去の真実を得たりします。そして彼女が入ったことで、
メイドカフェも、スタッフやお客さんたちがじわりじわりと変わっていくんですね。
素直でドジっ子ないとちゃんにみんなも心に触れるものがあったんでしょうねぇ。
高校生活でも一歩踏み出して大切な友人を得たいとちゃん。
その彼女らもいとちゃんを通じて三味線やメイドカフェなどの世界を知るわけです。
そうやっていとちゃんの一歩をきっかけに、
いとちゃんの世界が、そしていとちゃんの周りの人の世界が、様々な広がりを見せて、
それまであった枠がじわじわと溶けてなくなっていくのを心地よく読んでいきました。

ラストの三味線演奏が、トラブル込みで予想しやすい展開だったりして、
ちょっと物足りなかった思いもありますが(「階段途中~」のラストはもっと燃えたもの~!)、
とても読みやすく、安心感たっぷりの一冊でした。
続編も近いうちに読む予定です。三の糸まで出てるようですが、それでラストになるのかな??
いとちゃんの成長を楽しんで見守っていきたいです。