駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『給食のおにいさん』 遠藤彩見

これは面白かったです。
YA(ヤングアダルト)に分類される本なので、中高生向けの軽さはあったけど、
子どもも読めて、大人でも楽しめる本だったと思います。
 
<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
コンクールで優勝するほどの腕をもちながら、給食調理員として働くことになった料理人の佐々目宗。子供嫌いな彼を待っていたのは、保健室登校生や太ってしまった人気子役など問題を抱える生徒ばかり。さらにモンスターペアレントまで現れて。大人になりきれない料理人は給食で子供達を救えるか?笑いと感動そしてスパイスも効いた食育&青春小説。

子どもが通ってる学校の給食試食会に何度か行ったことあるので、
給食調理の苦労話などは聞いたことありました。
いくらおいしく作っても、和食だと食べ残しが多くて、なかなか完食してもらえないとか、
子供用に食べやすくするため、全部の材料を小さく切らねばならなくて大変とか。
なので、この本で佐々目くんがぶち当たる大量調理の苦労も、
「なるほどなるほど、やはりそうなのね」と確認する感じで読んでました。
栄養士さんのお仕事も、メニュー作り、予算、材料発注などなどかなり面倒くさそうなんですよね(^_^;)
本当頭が下がります…。
うちの子供の通う学校では、世界の食べ物を知ろうということで、名前も知らない外国の料理などが出てきます。
昔とは全然違うなーと、献立見てびっくりで、メニュー作りも試行錯誤されてるんだろうなーと思います。
 
まあ、そんな給食の裏側を見る面白さもあるのですが、それと同時に学校問題も取り上げられています。
保健室登校、ネグレクト、モンスターペアレンツ等々。
題材としてはシリアスな問題ですが、重くならないよう読みやすく、
それでいてそれらの問題にきちんと向き合って描かれています。
出てくるのは、小1プロブレムだとか、食事を与えてくれない親だとか、人気子役のストレス太りだとか、
子どもたちが自分自身ではどうしようもできないような問題なんですよね。
そういう問題にぶつかるとよく、保護者の責任だとか、先生の指導不足だとか、
大人側の原因探しや責任の押しつけになりがちなんですが、
今問題を抱えて困ってるのは子ども自身で、
まず子どもが今より安心できるようにすることが一番なんですよね。
佐々目くんは保護者や担任に訴えるのではなく、まず子供自身と向き合って、彼らに寄り添おうとしてくれます。
それも、大人が子供を諭すという押しつけがましいものではなく、
子どもが苦手だという彼は不器用ながらも、子どもの悩みを自分自身に置き換えて、対等な立場で共感し、
彼らにたどたどしくも精いっぱいの思いやりを伝えます。
そして、佐々目くんが自分自身に重ねるそれらの問題は、
読み手にも通じるような普遍性をもって訴えてくるんですよねー。
YAとなめていたら、思いがけず奥深い作りになってて唸らされました!
 
子どもの問題に対して、腕のいい佐々目くんが、スーパー料理を作って全て解決!というのではなく、
彼ににできたのは、子どもたちの心にたくさん積み上げられてる重石の一つを取り除く程度なんですね。
でもそれをきっかけに子ども自身がぽろぽろと重石を落としていくんですよ。
ほんのささやかな働きかけでも、本人の心に届けば、大きな転機へのきっかけになるんだ、
と読んでてすごく励まされました。
 
子供向けの易しさきれいさはあるけれど、大人も読める深さもちゃんとある、意外としっかりした作りの本でした。かわいい顔して、実はちょっと黒い栄養士の毛利さんが黒チワワと呼ばれてるせいか、
「トッカン」(高殿円)を思い出しました。
マンガっぽいキャラで楽しく読めるけど、結構リアルついてて考えさせられる構成など、
似たものがあるなーと思います。
 
続編も出てるので、楽しみに読んでいこうと思います(^^)/