駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『はなとゆめ』 冲方丁

うーん、なんだろ、ちょっとはまり込めませんでした。
だって清少納言がなんだか魅力的じゃない。そしてただ清少納言が絶賛するだけの定子も。
この二人が輝いてこその、「はなとゆめ」だと思ったのに。
私の中にある程度、清少納言のイメージが固まっちゃってるのがいけないのかもしれないけど、
こんな陰気じゃ、いつも対照的に比べられる紫式部じゃん、とか思ってしまう…。
冲方さんがこれまで描いてきた春海も光圀も、彼らを囲む女性らも今まですごく魅力的だったのに、
なぜ今回はこうなっちゃったのかなぁ?

<内容紹介>
清少納言は28歳にして帝の后・中宮定子に仕えることになる。内裏の雰囲気に馴染めずにいたが、定子に才能を認められていく。やがて藤原道長と定子一族との政争に巻き込まれ……。美しくも心震わす清少納言の生涯!

清少納言が書いた「枕草子」は、清少納言自身や、定子とのエピソードの中で、
きらきらと光り輝くものだけを集めた作品ともいえると思います。(すみません、『枕草子』は未読です…(^_^;))
その裏で、定子たちの身辺はとても悲劇的で、辛いことが数多くありました。
そんなことをほとんど見せず、明るく振る舞っているのが「枕草子」で、
そこには美しく聡明な定子、インテリで抜群のセンスの清少納言が描かれます。
清少納言の感覚は、すごく現代的だと思う)
今回の「はなとゆめ」は「枕草子」では伏せられた、陰の部分を中心に描かれているため、
こんなに陰気になってしまったのでしょう。
「はなとゆめ」の作中で清少納言は、「枕草子」で、愛しいと感じる全てを書く、
中宮様のために喜ばれる面白いことだけを書くと言い、
その決意が際立つように、背景にあった不幸な出来事を鬱々と描いたのだと思います。
事実「枕草子」にはそういう、たとえ不幸続きでも、
不幸の中に幸せを見つけ出そうとする側面があったと言えます。
枕草子」の裏を描く、というのがテーマであるなら、今回の暗い物語もありなのだと思います。
 
それにしたって、あれだけ「枕草子」で言いたい放題の清少納言が、
こんなに謙虚で卑屈なはずはないんじゃないか、と今回の人物造形には首をかしげてしまいました。
定子についても、清少納言がやたら褒め称えるばかりで、読んでてときめくような定子の描写は少なく、
あまり魅力的に思えませんでした。
(有名な「香炉峰の雪」のくだりのアレンジは、面白かったです)
この二人のキャラがもっと立てば、不幸続きのエピソードでも、
もっと入れ込んで読めたんじゃないかなぁと思います。
ラノベ出身で、魅力的なキャラづくりは得意な作家さんだと思っていたので、
今回の出来にはびっくりしたし、残念に思いました。
 
でもこの時代の微妙なやりとりを見るのは、面白かったです。
平安文化とは、やたらまどろっこしいというか、全てにおいて何かを挟むわけです。
人と人の間に、御簾を垂らし、文でやりとりし、言葉を人づてに伝えます。
その言葉も、何かを引用してそれにひっかけた言葉だったり、真意をほのめかす物を何気に添えたり、
返信が早い遅いで心情を含めたり、ほんと面倒くさいほどの遠回し表現なんですよ。
それこそが奥ゆかしい日本人文化のもとでもあるんでしょうけど、そんな平安のめんどくさいやり取りを、
この本ではわかりやすく説明してくれていて、そこは読みやすかったな、と思います。
(そんな遠回しすぎる平安文化、知識がないと理解が難しいけれど、なんか好きなんですよねー^^)
 
ちょっとこの本の清少納言と定子には不満なので、おススメ本を二冊紹介いたします…(^^ゞ

魅力的な清少納言を読みたい方には、田辺聖子さんの「むかし・あけぼの」がおススメです。
もう言いたい放題の清少納言なんですが、どこか憎めなくて笑っちゃいます。
文庫でかなり分厚い上下巻になりますが、田辺さんの文章がとても読みやすいので、
臆せず読んでみてください。
この時代については、冲方さんも参考文献に挙げていた、
山本淳子さんの「源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり」をおススメします。
一応学術書になるのでしょうけど、小説っぽく書かれていて、非常に読みやすく面白いです。
一条帝、定子、彰子が主に描かれ、清少納言紫式部、行成も出てきて、みなさん素敵です。
 
と、今回は不満たらたらな感想になってしまいましたが、それも冲方さんに期待しているが故です!
江戸時代で二作書き、今回はいきなり平安物。そんな精力的な姿は非常に好ましく思ってます。
ぜひまた歴史ものを書いてくれるのを楽しみにしてます♪