駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『マル合の下僕』 高殿円

現在ずーっとかかりきりの長編ファンタジー(高田大介「図書館の魔女」)がまだ読み終わらないのですが、
その合間合間に予約本を読んでおります…。幸い、読みやすい本ばかりでよかった(^_^;)

高殿さんのお仕事モノはやはり手堅いわ!
今回も楽しませてもらいました~。

<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
関西最難関のK大で博士号をとり順風満帆の出世ルートを歩むはずだった瓶子貴宣は、学内派閥を読み間違えて、目下は香櫨園女子大学の非常勤講師(つまりパート講師)としての少ない月収を死守する毎日。しかも、姉が育児放棄した誉との二人暮らしで“父親業”まで背負っている。そんなある日、貴宣の授業を奪いかねない強力なライバルが出現!貴宣はコマ数を確保できるのか、そして、マル合の傘下に入れるのか!?さらに、誉にはある人物の影が忍び寄っていて…。貴宣の未来を、開くのはいったい、誰?象牙の塔の“最下層”で起きている出世競争を描くお仕事小説!


「先生」と呼ばれる仕事って、勝ち組負け組などの格差が、
一般企業などに比べ半端ないってイメージがあります。
政治家、弁護士、医者などなど…。
下っ端がお偉方のために寝る間もなくただ働きさせられるとか、
ちょっとでもレールを踏み外すと、不遇な扱いから逃れられなくなるとか、ドラマや本だとよく見る気がします。
厳しい学力競争を勝ち抜いてきた人たちのつく職なので、実力や実績が物言う世界のように思うんですが、
金コネが強力に関わってそうですよねー。
実力より、要領や立ち回りのよさ、運不運こそが立場に大きく影響を与える世界なのかもしれません…って、
ドラマの中だけの話かもしれませんが。

そしてここで描かれる大学の先生たちの世界も、まさにそういう金コネが関わってくるわけです。
有名大学を出て博士号を取っても、月収10万って…ホントにありえるのでしょうか??
学歴がすべてとは思わないけど、それにしてもあんまりだ。
そんなどん底の彼がなんとか現状打破すべく、這い上がろうとしていくお話です。

まずタイトルの「マル合」とは何ぞやってことですよね。以下、出版社HPの説明からの引用です。

「マル合」=論文指導ができる教員。文部科学省教員組織審査において審査された教員のランクのことを指す。つまり「Dマル合」といえば、D論(博士論文)の合否を判定できる資格をもった教員である。学生に人気があり、学会で注目され、露出も多く、民間企業から研究費を引っ張ってくることができる“スーパーDマル合”――学閥バトルロイヤルに勝ち残りたければ、まずは“スーパーDマル合”に気に入られることが必須!

つまり大学でかなりの権力を持った方ってことなんですね。
その下僕となり、なんとかチャンスを伺うのが出世への手段ということになるわけです。
ちゃんとした立場を得ないと、自由に好きな研究なんてできませんからね。
私は、大学院には行ってないので、あまり大学の深いところは知らぬままに卒業してしまいましたが、
何やら派閥があるだの、あの先生はなんでこっちの研究室に入れないのかだの、
もやもやしたものは耳にしたことがあります。
色々先生の世界も大変そうだなーなんて思ったりしたんですが、
コマ数一つに、水面下でそんな争奪戦が行われていたかもしれないなんて…。
思った以上にシビアな世界なんだなぁ。

まあ、そんな大学の裏側を見る興味深さもありますが、
それ以外にもワーキングプア、ネグレクトなどの要素もあって、節約生活などの小ネタもあり、結構盛りだくさん。
最初ちょっと乗りにくい部分もありましたが、中盤から一気にはまり込んで読めました。

何と言っても、主人公・瓶子先生と同居人である小学生(瓶子の甥)・誉君のやりとりが楽しい。
ちょっと間違うと、どこぞのカップルですかと言いたくなる場面の数々。(別に怪しい関係じゃないですよ)
駅のホームで線路越しに別れ話をするなんて、恋人以外ではなかなか見ないと思うんだけど(笑)
そして、この作品のヒロインは間違いなく誉君だと思う!
最後の母親との絡みの盛り上がりのところはドキドキしたし、感動もしました…><

印象的だったのは、底辺にいると思い込んでる瓶子先生の視点が変わるラスト、
薬膳先生と会話、姉との対話の流れが胸に来ました。
自分が当たり前に持ってるものは、なかなかその価値が分かりにくくて、
それをうらやましがる他人がいるなんて思いもしない。
逆もしかりで、自分より上にいると思っている人が、自分以上に苦しんでるなんて想像もつかなかったりする。
大学で研究を続けること、一人で育児をすることなど、内へ内へとこもりがちな時こそ、
外の世界へ声を上げていくことが大事なんだろうな。
他人と真っ当にかかわっていくことで、自分の思い込みから抜け出すことができるのでしょう。

これ続編とか書かれないのかな?
登場人物たちが好きだったから、もうちょっとこの先も読みたいなーと思いました(^^)/
高殿さんのお仕事モノが好きな方は是非是非~♪