駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『若冲』 澤田瞳子

若冲の絵が好きなので、この本をセレクト。
初読みの作家さんですが、読書メーター見たら、私、澤田さんの「泣くな道真」を読みたい本に入れてました。
澤田さんってもともと古代史を中心に書かれる方なんですね。
今回、美しい文章に惹かれましたので、ぜひ他の作品も読んでみたいと思いました。

さて、今回の「若冲」。
絵は好きですが、若冲本人についてはほとんど知識がありませんでした。
読後に調べてみましたら、今作品では、史実に対してかなり澤田さんの創作が入ってるようですね。
しかし物語としては本当によくできていて、最後はあまりの彼らの到達ぶりに涙がにじみました。
歴史ものって、「本当にこうだったらいいな」とか「これこそが真相かもしれない」と思える本が
読んでて本当に楽しいと思います。
今作は「真相」ではないと思いますが、人間嫌いの主人公が頑なだったり、歪だったりしながらも、
しっかりと繋がりを深めてゆくそれぞれの人物関係がとても胸を打ち、
「彼らが互いの関係をこのように積み上げて行けたのならいいな」と思わされました。


<内容紹介>(amazonサイトより)
奇才の画家・若冲が生涯挑んだものとは――

今年、生誕300年を迎え、益々注目される画人・伊藤若冲。緻密すぎる構図や大胆な題材、新たな手法で周囲を圧倒した天才は、いったい何ゆえにあれほど鮮麗で、奇抜な構図の作品を世に送り出したのか? デビュー作でいきなり中山義秀賞、次作で新田次郎賞を射止めた注目の作者・澤田瞳子は、そのバックグラウンドを残された作品と史実から丁寧に読み解いていく。
底知れぬ悩みと姿を見せぬ永遠の好敵手――当時の京の都の様子や、池大雅円山応挙与謝蕪村、谷文晁、市川君圭ら同時代に活躍した画師たちの生き様も交えつつ、次々に作品を生み出していった唯一無二の画師の生涯を徹底して描いた、芸術小説の白眉といえる傑作だ。


さてこの本、若冲を描くわけですが、その本人は意外と味付けが薄いんですよ…。(と、私には感じられた)
あれだけの奇矯な作風ですから、さぞぶっ飛んだ感性の方なのだろうと思いきや、
意外と人物自体は地味目に描かれています。
まあ相当な変わり者ではあるのですが、
周りの方々も負けじと大物だったり(池大雅与謝蕪村、丸山応挙など…)、
インパクトある人物だったりが揃ってますから、
タイトルは『若冲』というより『若冲とその同じ時代を生きた者たち』みたいな感じです。
言い換えれば、あんな奇抜な絵を描く若冲がかすむくらいに、
周りの人びとやその時代が色濃く書かれているともいえると思います。
その描かれ方には本当に引き込まれました。
出てくる人々誰もが、その時代に立ってちゃんと生きてる感があり、
当時を覗き見るような一体感を感じられました。
特に語り手である若冲の妹・お志乃がよかったです。
彼女が懸命に若冲の内面を気遣い、慮る様に惹かれました。

あの不思議なマスの絵である「樹花鳥獣図屏風」をはじめとして、
若冲の絵画の創作背景が描かれていたのも面白かったですね。
どれも作者さんの創作だと思いますが、どれも説得力に溢れ、うまく物語に絡められていて感心しました。

ほんとに若冲はミステリアスです。
動植綵絵のような恐ろしいほどの描き込みをしたかと思うと、樹下鳥獣図屏風のような奇抜な絵をかき、
かと思うと親しみ溢れる非常にユーモラスな猿やカエルを描いたりもする。
振れ幅が広すぎてどんな人か全く見えてきません。
そういう意味では、ただひたすら後悔に囚われるという今作の若冲は、
「これぞ若冲」という人物造形ではなかった気はします。
しかし、彼を取り囲む人々と、彼と、当時の京都という絡ませ方が非常に巧みで、
小説としては見事な作品でした。
最後の弁蔵との話は本当に泣けました…。
読めてよかったです><