駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『葬偽屋は弔わない:殺生歩武と5つのヴァニタス』 森晶麿

ほんと森さんの作品って黒猫以外は読みやすい。(一番好きなのは黒猫シリーズですが)
今作もテンポよく読める作品でした。

<内容紹介>(出版社HPより)
自分が死んだら周りの人たちはどんな反応するんだろう。その願い<葬偽屋>が叶えます。アガサ・クリスティー賞作家が描く新たなヒーローはお坊さん!? 人の本音に迫る本格人情ミステリ!

偽の葬式をやっちゃう葬屋さんなんて、すごい設定。
確かに自分のお葬式って見てみたい気もするけど、現実では無理でしょ、って設定に難を感じたんですが、
条件の一つに葬式のあとすぐに参列者に嘘であることを伝える、とのこと。
それならまぁありかもしれないけど、でもそうなると需要はあるの?と思いましたら、
色々と面白いケースが並びました。(私の想像力がなさ過ぎ?)
少年からの葬式の依頼、初恋の彼の葬式の依頼、かと思ったら暴力団の会長からの依頼だったり、多種多様。

ちなみに「ヴァニタス」とは…寓意的な静物画のジャンルのひとつ。
「人生の空しさの寓意」を表す静物画であり、豊かさなどを意味する様々な静物の中に、
人間の死すべき定めの隠喩である頭蓋骨や、あるいは時計やパイプや腐ってゆく果物などを置き、
観る者に対して虚栄のはかなさを喚起する意図をもっていた。(wikiより抜粋)

ということで、作中でいくつも絵画が紹介されます。
主役が葬儀を行う坊さんなのに、美学を解く。そこが森さん(笑)
でも「死」から始まる美学的哲学は、これまた魅力的なのであります。

メメント・モリ。(死を想え)

好きな言葉、というと聞こえは悪いですが、常に心にとめて置きたい言葉なのですよ。
なので、この作品で語られる「死」というものに、惹かれてしまったなぁ。
よく言われる「大事なものは失ってから気づく」というように、
人は今日と変わらぬ明日が、必ず来ると思っているものなんですよね。
そういう継続していく日々に一つピリオドを打つのが、誰かの「死」であったりするのです。
現状に立ち止まって疑問を持つという意味では、ピリオドというよりクエスチョンの方がふさわしいか?
そんな、なすがままの日々だったり、わき目もふらない日々だったり、
迷路に迷い込んでしまった日々だったりする人々に、立ち止まる機会を与える「葬偽」。
5つの短編それぞれに趣向の違う仕掛けがあって、それぞれ楽しめます。
美学薀蓄ももれなくついてきますし(^^)

最初、歩武とセレナがいつもの森さんのコンビと雰囲気違ってるなと思ったのに、
最終章まで行くと、いつも通りの雰囲気になっちゃってるんですよね(笑)
ああ、いつもの関係だ~。でもそれにまたハマる私(笑)。
好きです、森さんのベタなじれったい関係。
というわけで、続編希望です(^^)