駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『世にも奇妙な君物語』 朝井リョウ

気軽に面白く読みました。
世にも奇妙な物語」の大ファンであるという朝井さんが、映像化を夢見て勝手に原作を書き下ろした短編集。
確かにいかにも「世にも奇妙な~」にありそうな話だらけ。
物語が始まった後に、タイトルを文章中にすっと挟む演出など、テレビを意識してる感じです。
とっても「世にも奇妙な~」風ではあるのだけれど、
その分、朝井さんじゃないと書けない話、というわけではないんですよね。
朝井テイストが好きな私としてはそこが残念ではあるのだけれど、
それでも今まで朝井さんが書いてこられたいろんな題材が元になっているようにも見えて、
ファンとしてはちょっとした集大成のような趣も感じられました。
ちなみに「世にも奇妙な物語」は昔は好きでよく見てたんですが、
途中から、なんか意味不明なのが合わなくなって、ずっと見てません。
最近のはどんな感じか知らないんですが、この本のはどれもわかりやすくて面白かったな。
朝井ファンとしては、一番のおススメはやはり『何者』ですが、
朝井さん入門編としてはこちらも読みやすくていいんじゃないかな?


<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
いくら流行っているからといって、経済的にも精神的にも自立した大人が、なぜ一緒に住むのか(第1話「シェアハウさない」)。その人がどれだけ「リア充」であるかを評価する、「コミュニケーション能力促進法」が施行された世界。知子のもとに、一枚の葉書が届く(第2話「リア充裁判」)。親のクレームにより、幼稚園内で、立っている金次郎像が座っているものに変えられた!(第3話「立て!金次郎」)。…そしてすべての謎は、第5話「脇役バトルロワイアル」に集約される。


では短編ごとに少しずつ感想を書いていきます。ネタバレ気味なので、未読の方はご注意を…。


「シェアハウさない」
楽しそうにシェアハウスやってるはずの人たちがどこか怪しくて、
不穏さがぬぐえない感じに引き込まれていきます。
ラストのブラックなオチにはぞぞっとなりました。
でも「俺が選んだわけじゃないんだ、こんな人生」というような、マイノリティ目線のセリフなんか、
弱者に目を当てた「世界地図の下書き」から来てるのかなーなんて思いました。
主人公が突き落とされるホラーテイストの物語ですが、どっちも被害者に見える描き方が印象深かったです。

リア充裁判」
エッセイで「リア充」「リア充」と連呼してるだけあって、朝井さんらしい題材だと思いました。
SNSによるコミュニケーション能力に言及する当たり「何者」に通じるものもありますね。
未だガラケーアナログ人間な私は、この話の中で議長が自称リア充のキシタニに、
ツッコミまくるのにすかっとしました(笑)
しかし一旦、非リア充な知子を持ち上げながらも、反転させるラスト。
朝井さんはネットに振り回されるのも、それを頑なに拒むアナログも良しとしてないんですね。
その間をうまく泳いでいかなきゃいけないんだろうな、現代社会は。ああ、難しい…。

「立て! 金次郎」
幼稚園に対して変なクレームを入れる、妙に力を持った保護者ってのは現実にもいますよね。
それに奮闘する幼稚園教諭たちを描くお話。
幼稚園の先生とは日ごろから接点があるので(保護者としてではなく)、
先生である主人公に肩入れして読んじゃいました。
先生たちはほんと、子ども第一でやっていきたいんですけど、
どうしても保護者の要求も無視できなくて、その矛盾に悩んでるんですよね。
そんな葛藤が詳細に描かれていると思います。
と、先生目線で読んでたんですが、ラストの反転では、
保護者達のクレーム内容が意味不明だという自覚があったことにホッとし、
先生への揺さぶりのため、という点は一理あるなとも思ったのでした。
保護者ばかり気にしてる先生は子どもの方を向いてくれないし、
子ども視点の先生は親受けが悪かったりとしますからねー。

「13.5文字しか集中して読めな」
日ごろ、ネットでだらだら時間を消費してしまう私にはちょっと痛い題材でした…。
あまり興味ないタレントのどうでもいい話題でも、
目についたらなんとなく記事をクリックしたりしてしまってますもんね。
これ読むと自分がいいカモだったような気がして反省しました…。
と、ネットニュースの話は面白く読んだんですが、
オチはちょっとリアリティなくて「ブラックなオチを作りました」感が出過ぎてたかなー?
子どもがあんなに堂々と親の恥を晒したりはしないんと思うんですけどね。
それより子どもなりの必死のフォローが更に親を貶める、とかの方がリアリティあったのでは、と思ったけど、
まあ、こんなありえなさが「世にも奇妙な~」っぽいのかも。
しかい朝井さん、大人の女性目線も相変わらず違和感ないな~。
「スペードの3」で磨かれたスキルが立派に身になってます。

テレビ大好きだろ、朝井さん!と突っ込みたくなった話です。俳優さんへの観察眼がすごすぎる…。
モデルになったどの俳優さんも大好きです。ほんと脇役でいい味出してる方ばかりで。
でも、主役の子はちょっとこのラインナップとは違う気がしたんだけど、やっぱこの話の主役だからでしょうか?
【逆説しゃべり始め説明】とか【空気ぶち破りハングリー】など、
脇役スキルを繰り出す流れには笑ってしまいました。
言われてみると確かに、と納得の解説。朝井さん、どんな風にドラマ見てんだ??
これは是非ドラマで見てみたいなぁ。
「武道館」でも芸能界の裏側を詳細に描いていたけれど、
こういう世界も朝井さんの引き出しになってるんだな~。


「ブラックなオチは比較的書きやすい」と以前おっしゃっていたように、
楽しそうに軽快に書かれた印象の作品集です。
まさにテレビを見てるようで、とても読みやすいです。
ドラマ化を本気で狙ってそうですが、さていかに?
今放送中の「武道館」の出来次第なのかしら?(全然見てないけど…(^_^;))