駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『はるか遠く、彼方の君へ』 阿澄加奈

運動会シーズン、わが子が「今年は僕、赤組!」と言った言葉に「よっしゃ、平家側だな」と喜んで返した私。
相変わらず源平熱が熱いです。(子どもは華麗にスルー)
※運動会の赤白は源平合戦から来ています。

というわけで、またまた源平物を読みました。
三人の高校生が、源平時代にタイムスリップするという、以前読んだ浅倉卓哉さんの「君の名残を」と同じ設定。
でも雰囲気は全然違いました。
「君の名残を」ではタイムスリップした高校生たちは、巴御前や弁慶など、源平時代の登場人物となるので、
すぐに平安時代の人びとになじんでしまって、現代人っぽさを失うんですね。
ですので、タイムスリップものというより、歴史物の印象が強い作品でした。
でも今度は高校生たちがそのままの感覚で当時に触れるという感じなので、
ちゃんと王道タイムスリップものになってます。
そして高校生たちが体験を通じて成長していく王道青春ものでもありました。
中高生には良書だと思います。
源平合戦を描きながらも、その中で「三種の神器を探せ」という展開なんかがファンタジーっぽくて、
さすがポプラ社だな、って思いました(^^)

<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
京都への修学旅行中の高校生・夕鷹は、博物館で古い剣を目にして気を失い、気が付くと炎があがる知らない土地にいた。武士に襲われたところを助けてくれた男は、源九郎義経と名乗る。ほかにも同時にタイムスリップしたらしい2人の高校生、華月、遠矢と出会い、夕鷹たちは「平家物語」の記憶をたどりながら、元の世界に戻るために、神器の剣を探す。焦燥や葛藤、恋と別離。ラストには感動が押し寄せるロングストーリー!感動のタイムスリップ青春小説。

最初の導入部分からちょっとファン心をくすぐられます。
だって、平家が壇ノ浦でなくしたという草薙の剣(三種の神器の一つ)が発見されて
博物館に飾られているというんですもの。
ああ、これこそファンタジー!ほんとに発見されないかなー??(すんません、ただの源平ファンです…)

えっと、普通に感想を述べますと、心に虚を抱えた男子高校生・夕鷹が、
同じようにタイムスリップした高校生たちと共に、生死を懸けた時代を生きることで、
現代では実感しにくい生きる意味、価値を知っていくというストーリーです。
王道でベタな展開っぽく進む中、少しずつ予想を外してくるのがなかなかよかったです。
それでいて大筋ははみ出さない安心設計なので、中高生向けとしては最適ではないかと。
古い時代の義経らが戦う理由や結果が、現代へ続いていく。
そういう風に歴史を地続きで感じられるということは、とても大事なことだと思うんですよね。
まあ私には高校生たちの話はちょっと青くて、
そのせいか端々の源平記述ばっかで盛り上がってしまったんですが…(^_^;)
でも、遠矢と美弥姫の話はなかなか泣かせてくれますし、華月の片思いもドキドキを共感しました。
華月なんて年の近い相手を好きになったのに、「故郷には妻子がいる」だなんて、
当時としては当然のことですが、時代が違うってむごい、と思ってしまった(笑)

義経はいかにもヒーローな造形で描かれて素敵です。(私の理想は、そういう義経じゃないんですけど・笑)
義経に仕える佐藤兄弟がマンガチックなキャラ設定なんですが、なかなか素敵で萌えました(^^)
大らかな継信に、クールな忠信なんですよねー。
そして義経のライバル的存在で描かれるのが、平教経。平家一の猛将ですが、ここでは美形扱い。
そーなの、平家男子はみんなイケメンと言われているの!と、平家ファンとしては大喜び(笑)
出番はわずかですが菊王丸(教経に仕えていた童)も登場しちゃっててね、
マイナーキャラに出番があるだけで、ひそかにうれしかったです。

歴史ものとしては軽さがあるものの、なかなかマニアックな描写も多くて楽しめました。
普通、義経主役の話は、義経の相手は静しかいないんですが、
今回はちゃんと史料通りに義経の正妻がいたり、平時忠義経に娘を送ってきたりしてるんですよね。
(しかしそれにしたって静と義経のロマンスが薄すぎたなぁ)
あと創作部分でも、平家物語で維盛が入水自殺するんですけど、実は熊野の別当湛増が殺したとか、
義経が京都警護で大人しくしてるはずの間、実は忠信を影武者にして熊野に行っていたとか、
微妙に史実に加えるフィクションが面白いな、と思いました。
梶原景時がただの嫌な奴だったのがちょっとなー。まあ、そう描かれがちな人ですけど。
やっぱ景時は永井路子さんのがベストだな。
あと、史実の人物が最初に登場する時に、九郎=義経はもう当然として、
宗高と聞いてすぐに那須与一がぴんときた私は、自分もここまできたかと思いました(笑)

とまあ、マニアックな感想を書きましたが、歴史を知らなくても全く問題なく楽しめます。
高校生たちの視点がメインで進む話ですので。
歴史ものが苦手な人や、中高生には読みやすくておススメです。
でも源平好きなら、やっぱ「君の名残を」かな。
読み応え度と切なさ度はやはり「君の名残を」に軍配が上がりますねー。
でも今回の本も楽しく読みました♪