駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『利休にたずねよ』 山本兼一

頂点を極める人の心内など、凡人の私からは計り知れません。
けれど、道を究める人たちから感じるのは、
「貪欲」であるということ。
ひたすら求道することに腐心し、いくら登ろうとも飽き足らない。
今回この本を読んでも、やはり同じ印象を持ちました。

歴史にもそんなに明るいわけではなく、
その上、茶道もさっぱりな私ですので、
感想を書くのが、気が引けるのですが(汗)
好き勝手に書かせていただきます~。

読み進めていて、似てるなと思ったのが、手塚治虫…(汗)
私が手塚治虫をすごく好きだからというのもあるのですが、
なぜか手塚さんと利休が重なったのです。
利休が命を賭けるほどに美を追求したように、
手塚さんも漫画、アニメへと魂を込めるように打ち込んでいきます。
初めは好きでやっていたものが、
道を究めれば究めるほど、
貪欲になっていく様が似ている気がします。
そのこだわりが、常人の理解を超え、
その執着が、命を削らんがごとく。
凡人からはただただ感服、そして畏怖の境地。

千利休は、教科書レベルの知識しかなかったのですが、
茶の道を極めた達観した人、というイメージだったのが、
この本で、すごく人間臭さが感じられました。
ひたすら貪欲に美を追求し、頑固として道を譲らない偏屈ぶりが
血の通う人間らしさに溢れていて魅力的でした。
その審美眼に誰もが嫉妬し、利休に一目置きます。
しかし私がそこで思ったのは、利休の周りの人々もすごいということ。
この時代は皆こんなに美意識が高かったのだろうか、と。
利休のすごさはわかる人でないとわからないようで、
一見何の変哲もなさそうなものが、絶妙のバランスであるとか、
さり気なさに奥深さがあったりします。
この本ではさまざまな名のある人々が、利休について語りますが、
彼らみな非常に美に繊細で、識者であったのだと、その点に感心しました。
私だったら「なにがそんなにすごいの?」と思っちゃうんだろうなぁ(汗)

この本は、雑誌に連載されていた短編をまとめたもののようで、
24編の短い話から成り立っています。
そして利休が死を賜るところから始まって、
秀吉や織部など、利休に関わる人たちによって、
時代を遡りながら、利休が語られます。
周りの登場人物全て、魅力的に描かれていて、素晴らしかったです。
秀吉と利休の軋轢については、史実ではっきりしてないようですが、
この本は丁寧に二人の差異を描いており、すごく納得のいく流れでした。
一つ一つの話が、すごく緊張感があり、完成度も高いです。
しかしそれだけ密度の濃い話が、24遍にもよって語られるのが、
ちょっとバランス悪かったかな?
短編を束ねる構成もよくできていて、この作品はこういう形でしか
成立し得なかったとも思うのですが、
一気読みしようとすると、ぶちぶち途切れる感じが、
ちょっと気になりました。

なので、非常に個人的な見解で、星四つ。
内容のレベルは5つでもいいと思うんですけどね…。
非常に上質な作品。一読の価値ありです。