駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『今ここにいるぼくらは』 川端裕人

私は小心者で、幼いころでも、
特に無茶をするような子どもではありませんでした。
でも、親に言えない冒険譚や秘密はたくさんありました。
きっと誰でも、そう。
だからこの本にも多くの人が共感するのだと思います。

読みながら、幼い頃のドキドキや、当時の空気を感じました。
全ての事に敏感で、何もかもが強烈で、
ひたすら時間が長かったあの頃。
私には主人公の博士ほど強烈な体験はなかったけれど、
それでも彼と同じように
新しい知らない世界に心ひかれ、
生と死の不思議に怯え、
友人関係に頭を悩ませ、
自分の中の世界が変わる瞬間に出会い、
異性との違いに気付き、
少しずつ大人になってきたのです。
読みながら、自分の子ども時代の記憶が次々とよみがえってきて、
ちょっと驚きました。
と同時に、胸が苦しかったです。
大人になるというのは、強くなるのではなく、鈍くなることだったんですね…。

年齢を変えて、いくつかのエピソードで語られていくのですが、
時間が前後するのがちょっと戸惑いました。
あと後半、高学年になってのエピソードは性別の違いからか、
前半ほど共感はできなかったです…。
そういえば、今でも覚えています。
同級生の男の子が5年生になって急に変わったのを…。
それまで男女なく遊んでたのに、急に言うことや雰囲気が変わって、
近寄りがたくなったんですよね…。
男女の違いが特に強く出てくる時期だったんですね。

そんなこんなで自分の体験も追いながら、二重に読んだ感じの本でした。
常に今いる場所に「僕の居場所はここじゃない」と違和感を感じる主人公。
私は居場所じゃなくて、「これは本当の私じゃない」と
よく思っていました。
きっと未熟な自分を受け入れられなくて、持て余して、自分を否定してしまう。
だけど人との交わりやたくさんの経験を経て、
成長とともに自分を受け入れていくことで、
自らの存在を実感できるようになるのかな、と思いました。
それは経験による好ましい成長であったり、
現実を知っての妥協だったりするのですけど。

川端さんの作品はこれが初めてです。
三人称と一人称が乱れるような文章が時々気になりましたが、
共感できるリアルな表現力が抜群。
星4つです。
他にも色々書いているようなので、別の作品も読んでみたいと思いました。