駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『あるキング』 伊坂幸太郎

伊坂さんの作品をそれほどたくさん読んだわけではないのですが、
私の中では、大きな権力や宿命などに翻弄される人間を描いた作品が多いように思います。
もしくは物語に何か大きな存在を隠して描いてるような…。

今回の話は、いつもの逆の立場の、
「大きな存在」について描いてみたのかな、と思いました。
野球界の王様(キング)という形にして。

いつもの伊坂さんらしいノリがなく、淡々と語られる王、山田王求。
ふんだんに散りばめられるシェイクスピア
戯曲のような感じで話は進みます。
(三人の魔女が出た時点でシェイクピアっぽい、と思いました。
その後も、当然のように描かれる死、暗示的表現、ウェイトの高い親の存在など、
古典じみてますね)

最後の方で南雲慎平太が王求に語りかけます。
「野球は楽しいかい」
王求は小さく頷いただけでしたが、彼の望みはそれだけであったと思います。
「野球は楽しい」
それが王の想いだったのです。

王はそれを望むだけなのに、その万能な能力によって、周りが振り回されます。
それに反発するもの、利用しようとするもの、崇拝するもの。
きっと周りの、乃木だとか、津田哲二だとか、権藤だとかを主人公に一冊書けば、
いつもの伊坂作品になったのだと思います。
大きな力の前に翻弄される人間たち。
だけど王は彼らに降りかかる事柄を、いちいち指示して与えているわけではありません。
ただ存在しているだけなのです。
その対比を非常に興味深く感じました。

この本は、この作品のみではあまり評価できないんですが、
伊坂作品の中で、意味ある一冊だと思います。

でも星は三つ、なんですけどね…。