駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『鉄の骨』 池井戸潤

面白かったです。
池井戸さんの作品を読むのは、「空飛ぶタイヤ」に続いてこれで二作目。
500P越えるボリュームですが、今回は二段組みじゃなかったので、
「前より少ない」と思ってしまいました(笑)
池井戸さんだったら500Pあっても問題なしです。
やっぱりあっという間に読んじゃいました。
 
今回のテーマは「建設業界」「談合」です。
小難しそうなテーマでも、分かりやすく誘導してくれるのですいすい読めました。
前作もそうでしたが、池井戸さんは、一つの事件に対して、様々な立場の人の視点で物語を描いてくれます。
誰しも言い分があって、立場がある。
もちろん作者が意図する流れはあるのですが、
読者自身も判断できるよう、判断材料をこうして挙げてくれている気がします。
正しい間違ってる、善い悪いと一言で片付かないのが現代社会なのです。
だけどそんな中でも揺らいじゃいけないものがある。
そのことを池井戸さんは訴えている気がします。
タイトル「鉄の骨」も、会社人の曲げてはいけない誇りのようなものを指しているのかなと思いました。
 
(以下ネタばれです。未読の方はご注意ください)
 

 
 
 
 
フィクサーは、三橋じゃなくて、尾形さんでしたね。
最後読んでぞっとしました。
なんと怖いもの知らずな、恐ろしい男なんでしょう。
ここまでやると、平太が一松組に面接に来たのも彼の差し金では?とまで思ってしまいます(笑)
三橋さんは、哀しい人でしたね。
自分には取り返しのつかない過去としがらみがある。
だから「理想」を必死で平太に託そうとしてる姿が、切なかったです。
どっぷり深い世界に浸かった人間は、蜘蛛の糸にかかったみたいに、
自分では身動きとれなくなってしまうんでしょうね。
 
平太を軸に、会社の問題と彼女の問題を交互に描いていくわけですが、
序盤はこの二つが巧くからんでいたのが、
後半、会社問題の規模が大きくなっていくと、萌との問題がアンバランスになってきて、
ラストの方では「いや、いま園田はどうでもいいから」と思えてしまいました…(苦笑)
平太と対照的な、園田の視点はとても面白かったんですけどね。
園田本人がもっと事件にからんできたら面白かったかなー?
 
あと、私は「談合」とかに関して無知なんですが、
素人意見で、一番悪いのは「官」じゃないかなーと思ったんですが。
「入札」に際し、業者がびっくりするような安値の予算って・・・。
利幅が少ないから、少しでも損しないように「談合」が行われるわけで、
予算がそれなりに妥当な金額であれば、競争もできるのではないかと思うんですよね。
あれだけ必死にコストダウンって言って、下請け困らせて、
それで建てられる建築物って大丈夫なの?と思ってしまいます。
で、もし何か不備があった時には、「官」は業者を非難するのでしょうね。
公共事業の入札制度は、このままにしていては大変なことになってしまいそうです…。
 
今回もとても面白かったのですが、「空飛ぶタイヤ」に比べると、クールダウンって感じですね。
スマートに書かれてる印象です。
「空飛ぶ~」は赤松社長が熱かったからなー。
今回は主人公平太が巻き込まれていく形で淡々と進んでいくので、
「空飛ぶ~」に比べるとメリハリが弱く、少し物足りなく感じました。
とはいっても力作。
池井戸さんには今後もこういう作品を書いていってほしいです。
星は四つです。