駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『小暮写眞館』 宮部みゆき

読書好きなら外せないであろう「宮部みゆき」を、私はほとんど読んでません。(「おそろし」くらいかな)
特に好き嫌いがあるわけじゃないんですけど、読みそびれてきたというか…。
今回、宮部さんの作品を読んでみて、「ああ、やっぱり想像通りうまい人なんだなー」と思いました。
何と言うか、伝えたい描写を過不足なく書いてくれてる、という感じですかね。
思い入れが強いあまりに書き込みすぎる文章だったり、
独りよがりで読み手に分かりにくい文章だったりがある中で、
宮部さんの文章は、読者との距離が程良い感じで、読んでてとても読み心地が良かったです。
 
ただ今回の作品に関して言えば、この分厚さで、
構成的に過不足ないかと言えば、そこは首をひねってしまうところなんですが(^_^;)
 
高校生が主人公の「青春小説」といったところでしょうか。
でも、読み始めと読み終わりの地点が全然違うんですよね。
電車に乗ってごとんごとんと揺られていたら、全然違うところに着いてしまってたよ!という感じです(笑)
でも道中はとても快適で、のんびりのんびり読み進めました。
起承転結からなるタイプのお話ではないですよね。
どこで切ってもいいような、どこまでも続いていってもいいような。
そういう意味では、とても不思議な読後感です…。
 
出てくる登場人物は魅力的でした。
表面上は問題ない穏やかな日々を送っているように見えるのに、ふとしたはずみで漏れる影…。
本当は誰もが重く苦しいものを抱えていました。
そういうものかもしれません。
ちっちゃいピカだって、苦しさを抱えて、でも笑って生きて、
大人である、英一のお父さんやお母さんも、喪失の痛みと、実家とのわだかまりを長年抱えてるのに、
変な家を買って陽気にしてます。
人は誰だっていつまでだって、悩み苦しみ、自分と闘っていくのだろうと思います。
でも、ここに出てくる人たちはそんな悲壮感は見せずに、
笑顔で柔らかく生きているんですよね。
 
主人公・英一は心霊写真探偵をきっかけに、人の想いの零れる部分を知ります。
やがて周りの人の、隠してもはみ出そうな闇にも敏感になって、
「まあ、いいけど」で流すんじゃなくて、人の心に一歩踏み込むことを知っていくのです。
最初の英一の描写には、自分と相手の間にきちんと境目があるのに、
ラストになると、相手の想いも含め、かなり広い範囲で語っています。
そして、鬼のように思えていた親戚の人たちが、普通の人に見えるようになるくらいに、
この中でひとつ成長を遂げるわけです。
 
いくつかのシーンで、ほろっときました。
ピカと英一の関係は、なんかくすぐったいくらい微笑ましくて(でもなんか大人な関係ですよね(^_^;))、
不動産屋さんの社長さんがまた素敵で、あとクモテツのヒロシが好きでした。
表紙のような春の光にあふれたような本でした。
 
とてもいいお話なのですが、やはり私はこの不思議な構成に引っかかってしまいます…。
最初と終わりがきちんとした方が、もっと印象強く心に残ったと思うんだけどなぁ。
どうしてもだらだら感があって、とりとめない感じです。
たくさんの本を書き慣れた宮部さんなので、あえてこういう構成をとったんだと思いますが…。
ちょっと辛めで星三つです(^_^;)
 
でも宮部さんの本にはちょっと興味がわいてきました。
なにかおススメな本がありましたら、宮部ビギナーなわたくしに、教えてくださいませ~。