駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『ふがいない僕は空を見た』 窪美澄

面白かったです。
最初は聞いてた通り性描写がきつくて、受け付けなくて、最後まで読めるかなー?と思ったけど、
途中から読みやすくなってきて、最後は心地よく読了。
 
<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
これって性欲?でも、それだけじゃないはず。高校一年、斉藤卓巳。ずっと好きだったクラスメー
トに告白されても、頭の中はコミケで出会った主婦、あんずのことでいっぱい。団地で暮らす同級生、
助産院をいとなむお母さん…16歳のやりきれない思いは周りの人たちに波紋を広げ、
彼らの生きかたまでも変えていく。第8回「女による女のためのR‐18文学賞」大賞受賞、嫉妬、感傷、愛着、
僕らをゆさぶる衝動をまばゆくさらけだすデビュー作。
 
一章に出てくる高校生・卓巳にも主婦・あんずにも、読みながら眉を顰めてしまいました。
「何やってんだろ、理解できない」と。
すると次の章であんず視点で描かれます。
そして次は卓巳の彼女…と繋がっていくように語り手が変わっていって、
彼ら自身、そして過去の登場人物の物語が語られていきます。
すると、最初は反感を覚えた登場人物だったのに、
読み進めるごとに、彼らの幸せを願っていることに気づくのです。
そして世間的には非難されるような登場人物それぞれにも、寄り添ってしまう自分がいました。
 
人には、きっと弱い部分と強い部分が必ずあるんですよね。
最初に出てくる高校生は性欲に溺れる弱さはあったけれども、
彼には人を労わる優しさがありました。それは彼の持つ強さです。
助産婦である母のもと、出産と言う生の現場に立ちあって、命を見続けてきて培ったものでした。
主婦あんずも趣味に逃げた弱さと、そして相手を気遣って、耐え忍ぶ辛抱強さがありました。
だけど、その強さと弱さのバランスを崩してしまうと、ほころびを世間に露呈してしまうのです。
 
今の時代、一度間違いを犯すと、世間が野次馬のごとく寄ってたかって、
その人の全人格を否定してしまうんですよね。
罪を犯した行為は責められるべきかもしれないけど、
その人全て、その人生全てを否定するのは違うはずです。
だけど周りは「正義」を振りかざして(無関係の人は特に)、無責任にその罪を追及するのです。
そういう逃れ難い怖さを知り、そしてそういう偏見が自分の中にもあることに気付き、ぞっとしてしまいました。
 
「セイタカ」の彼だって、貧乏で、頭の悪い学校に行ってて、過去に万引きもやって、
ついにはバイト先のコンビニで盗みまでしかけて、
世間的には「どうしようもない人間」と言われるのかもしれません。
だけどこれを読めば、彼がどうしようもない人間なのではなくて、どうしようもない状態だったことを知るのです。
そして二人で暮らす祖母に対する深い敬愛の姿も…。
そうすると、「セイタカ」の話の中では、ひどい母親に見える彼女にも
きっと彼女のストーリーがあるのだろうと思えてきます。
 
大事なことは小さな声で囁かれてる。
それを私たちは聞き逃してはならないんだろうな。
 
けっして幸せな話ではないけれど、哀しさを伴うけれど、優しさにあふれた物語でした。
不器用な私たちを、清濁併せ呑んで包み込んでくれるような空のような。
 
星は四つです。
きつい性描写に身近な人にはおススメしにくいのですが(^_^;)、
読んで損はない本ですよ、とここでは声を大にして言っておきます(笑)