駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『小夜しぐれ─みをつくし料理帖─』 髙田郁

前巻くらいから、物語の大筋が見えてきた感のあるこのシリーズ。
前回同様、今回も人の心の暗い部分を描きつつも、軽やかさは忘れずに、
心にじんわり火を灯すお話が並んでいます。
 
料理を芯に置きつつも、今回は人に重きを置いて語られたような気がします。
それぞれの登場人物の心理に深く食い込んだ話を見せてくれました。
一巻では澪の周りが「いい人」ばかりすぎて、出来すぎ感も感じられたのだけど、
今回はそういう方たちの心の影に目を向けたお話が描かれてきます。
今までの話の中でも彼らが辛い過去や暗い想いを抱えていることは触れられてきたけれど、
それを感情的に表に出すことはあまりなく、現在の幸せそうなところばかり見ていた気がします。
でもそうではなかった。出来すぎにも見える優しさには、ちゃんと理由がある。
過去にしてきた経験が今の彼らを作るのだから。
今回は、馴染みとなった登場人物たちの意外な一面をたくさん見ることになる巻となりました。
それによって、胸を痛めたり、驚いたりさせられたのですが、
彼らの奥行きが増し、人間臭さが感じられて、さらに身近に感じられるように思えた気がします。
 
<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
季節が春から夏へと移ろい始める卯月のある日。日本橋伊勢屋の美緒がつる家を訪れ、澪の顔を見るなり泣き始めた。美緒の話によると、伊勢屋の主・久兵衛が美緒に婿をとらせるために縁談を進めているというのだ。それは、美緒が恋心を寄せる医師、源斉との縁談ではないらしい。果たして、美緒の縁談の相手とは!?―(第三話『小夜しぐれ』)。表題作の他、つる家の主・種市と亡き娘おつるの過去が明かされる『迷い蟹』、『夢宵桜』、『嘉祥』の全四話を収録。恋の行方も大きな展開を見せる、書き下ろし大好評シリーズ第五弾。

(すみません、これ以降はネタばれを交えた感想です。未読の方、ごめんなさい)

今回表題作の「小夜しぐれ」は、大きなターニングポイントになりそうですね。
「夢酔桜」で提示された伝衛門の誘い。それは澪の目標である「天満一兆庵の再建と野江の身請け」、
それらが一気に叶えられるかもしれない話であるにもかかわらず、澪はその道をすぐに選ぶことができません。
どうしても叶えたい目標だけど、「料理」をその手段に使うことはできなかったのかな。
澪にとって「料理」とは、手段をこえて、自分そのものだったのかもしれません。
「料理」は、何かに利用するような技ではなくて、心とともにあるものなのでしょう。
そしてその「料理」に大きな影響を与えるであろう、指の件。
このことはこの先の、澪の道の選択肢に関わってくるのでしょうね。
その他にも、佐兵衛との邂逅もありました。澪と芳には大きな一歩でした。
そしてそして、「小夜しぐれ」の中で、メインの話に据えられている美緒の結婚。
前巻を読んだ時に、源斉先生は澪ともう絡まないのかなと思ったら、なんとなんと復活ですよ!
源斉先生を娘・美緒の相手にと望んでいたはずの久兵衛は、澪と源斉先生の二人の様子を見て、
爽助の婿取りを決め、そして美緒もまた二人の様子を見て、結婚を決意するわけです。
源斉先生、澪への想いがダダ漏れ状態なんじゃないですか…?(笑)
そしてそれに全く気付かない澪(><)源斉先生、気の毒すぎます…。
この二人はどうなっていくんでしょう?
と気を揉みつつ、次の話に進みますと、なんと初の小松原さま視点の物語!
澪から離れて、身内に囲まれると、小松原さまがなんともかわいらしい(笑)
だから澪の前ではあんなに威張りたがるのか?(笑)
そして小松原さま(どうしても「さま」付けになってしまう…笑)の澪への気持ちもちらりと垣間見えました。
さて早帆さんあたりがキーマンになるのでしょうか?
 
ちょっと少女マンガ風テイストが強まったこの巻。
好きだった沁みるような文章が、ちょっと鈍くなってきた気もしますが、
それでも好きなシリーズに変わりありません。
料理がらみの人物を澪の周りに配し、御膳はここで整った感があります。
今後、話が一気に動いて行く気配がありますね。
非常に続きが気になるのですが、図書館にはまだ最新刊が入ってないんです~。待ち遠しいなぁ。
 
星は四つです(^^)