駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『サクリファイス』 近藤史恵

衝撃でした…ただただ衝撃。
私が変則的に、三冊目の『サヴァイヴ』から読んでたから、余計にかもしれない…。
この本での、その結果も、その真意も、素直に受け入れられない私がいて、
読み終えてしばらく悶々としてしまいました。
 
ロードレースというあまり馴染みのない競技を、本当に分かりやすく描いてくれてるなと思います。
私の場合、このシリーズのスピンオフとなる『サヴァイヴ』を先に読んでるから、競技についても、
登場人物についても予備知識があって、すんなり入れました。
ただその分、ある人物への疑惑が初読の人より薄れちゃってたかも。
だから、ミステリより、ロードレース物としての方が印象強いですね。
なんか登場人物に思い入れが強すぎて、「ミステリ」と言われてもピンとこないくらいです…(^_^;)
 
<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
ただ、あの人を勝たせるために走る。それが、僕のすべてだ―。二転三転する真相、リフレインし
重きを増す主題、押し寄せる感動!自転車ロードレースの世界を舞台に描く、青春ミステリの逸品。
 
「青春ミステリ」って書かれてますね…それはちょっとイメージ違うなぁ。
ただただシビアなプロの世界ですよ、これは。
個人競技なのに、チーム競技でもあり、
「アシスト」と「エース」という役割が非常に重要な意味を持つこの競技だからこそ、
起きた事件だったのかもしれません。
近藤さんの文章が読みやすくて、慣れない世界もするする入って行けました。
でも、チカ(主人公)のちょっと変わり者の人物像がうまく想像できないんですけどね…。
謙遜しながら、結構な実力の持ち主ですよねー。
そのギャップが元恋人の香乃との確執をもたらしたのかな??
 
 
(すみません、以下ネタばれありの感想です。未読の方、ごめんなさい~!)
 
 
この本の中で、チカが以下のように語る部分があります。
 

ときどき思うのだ。
自らの身を供物として差し出した月のうさぎの伝説のように、
自分の身体をむさぼり食ってもらえれば、そのときにやっと楽になれるのはないかと。
だが、現実にはそんなことは起こりえない。
むしろ、それは、ひどく尊大で、人に負担を強いる望みだ。
だれも、他人の肉を喰らってまで生きたいとは思わないだろう。
月のうさぎは、美しい行為に身を捧げたわけではなく、むしろ、生々しい望みを人に押し付けただけなのだ。
 

読み終えたあと、この部分を読み直して、なんてことだろう、と顔を覆いたくなってしまいました。
この部分は、チカが自分がアシスト向きであることを自覚する場面で書かれるわけですけど、
読み終えれば、違う人を重ねてしまいますよね…。
 
「私のために勝ってよ」「もちろんさ」
と口先だけで約束していた昔。
「ゴールに一番に飛び込む意味がわからない」と言っていたチカ。
勝利の重みを、勝つということの持つ本当の意味を、彼はのちに思い知らされるわけです。
 
「俺たちは一人で走ってるんじゃないんだぞ」という石尾の言葉。
彼はたくさんの人を踏み台にして、期待を抱えて、赤城の夢を乗せて、駆け抜けてきました。
それが「エース」の務めだから。
 
「エース」で走ることは相当の覚悟だったのでしょう。
一人の選手生命を断ってなお、その上で走り続ける。
彼のブレのなさは怖いくらいでした。
 
そして、「エース」の最後の仕事はそれを繋いでゆくこと。
彼は「エース」の仕事を全うするわけです…。
彼が目先だけを見てない証拠がパンクのシーンでわかります。
一レース費やしても、チカに見せ場を作ったわけです。
だけど、その故意の事故を自分の自信のあるレースでやってのけ、
そのレースはちゃんと満足いく成績を上げましたもんね。
なんというか、どこまでも貪欲だなーと。
「エース」として勝ちをモノにすることも、後に繋げることも必要と思えば、やってのけてしまう。
その強靭さは、自分の存在価値すらも軽く捻じ曲げ、のちの悲劇に繋がるわけです…。
 
場面場面でチカの成長を喜んでいる石尾の姿が、読み返すと非常に切なくなります…。
彼は頂上に立った者だけが知る視点でロードレースを見てたのかなぁ。
このあとまた『サヴァイヴ』読みたくなっちゃいました。
石尾さん、赤城さんとあんな約束したんだよなーとか、
どうりで『サヴァイヴ』は「ゴールよりももっと遠く」で爽やかに終わらなかったわけだーなんて思いました。
 
星は四つです。
読み終えた後、いろんなものをしばらく引きずってしまいましたよ…(涙)
余韻以上のものを残されてしまった。
でも面白かったです。『エデン』も楽しみだな(^^)