駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『四龍海城』 乾ルカ

プロローグにある「神かくし」という言葉を見て、「ああ、乾ルカさんだなぁ」と感じました。
(すみません、乾さんまだこれが三冊目で、何言うかという感じなんですが…(^_^;))
『蜜姫村』でもそうでしたが、乾さんの作品って、全くの別世界じゃなくて、この地と地続きなはずなのに、
気づけば全然違うところへ連れて来られたような怖さがあるんですよね。
今いる世界と背中合わせで、何かのはずみでとんっと回転扉に吸い込まれてしまうように…。
いつか自分もそちらへ行ってしまうのではないかというような、
ぞぞっとくる雰囲気があります
それが怖くもあり、魅力的にも映るんですよね。
 
<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
健太郎の家の近くの海に、ずっと前から不気味な塔が建っている。地図にもインターネットにも載
っていない、謎の建物。夏休みの最初の午後、憂鬱な気持ちで海岸にいた健太郎は、気が付くとそ
の塔に「さらわれ」ていた。そこには感情がなくなった人々の群、閉じ込められた十数人の大人た
ち、そして昏い目をした少年、貴希がいた。健太郎と貴希は次第に心を通わせ、塔を出るための「
出城料」を共に探し始める…。少年たちのある夏、切なすぎる冒険譚。
 

(以下はネタばれありの感想です。未読の方、ごめんなさい><)
 
 
切ない物語です。黄昏に似た喪失感といいましょうか。
 
とにかく切ない。何が切ないって貴希が切ない。
貴希のことを考えると、枕が涙で滲んでしまうくらいに、切ない気持ちでいっぱいになります。
「きれい」を「もう戻らない」に重ねている。
閉塞感の中で生きてきた彼は、きれいな未来を見ることができないのです。
 
美しい時間は、即「失われる」に直結する彼。きれいで美しい光景は、彼を苦しめるのです。
彼が穏やかにきれいだと感じられるのは、すでにそれが失われた残骸である「廃墟」を見る時だけ。
そこから記憶をたどって、きれいな時間を想像するのです。
 
きれいなものをそのままきれいだと受け止められる健太郎は、出城料がわかりかけても、
無意識に目をそらしてしまいます。
それは目の前にこれ以上ない未来を描いていたから。
貴希と城の外に出て会う夢は、まばゆいくらいに輝かしくて、
いろんなものを見えなくしてしまっていたのでしょう。

だけど、貴希は冷静に状況が読めていた。
自分から奪われるもの、健太郎から奪われるもの。
城を出ないで、大事なものを守る道もあった。
だけど言い出せずに、健太郎に遠まわしに言ってみるも気づいてもらえなくて、
彼はずっと苦悩していたのでしょう。
 
美しい朝を繰り返し見つめ、「きれい」を受け止めて、心に刻もうとする。
大事な時間とちゃんと向き合う覚悟を決めて、
健太郎との思い出をきちんと大事なものとして、胸にとどめておけるように。
 
結局、記憶を守る道を選ぶ彼。
きっと健太郎がいない世界は、彼にとっては城の外であろうと中であろうと大差はなかったのかもしれません。
だったら、自分の中にいる健太郎と過ごすことを選んだのでしょう。
もう戻らない「きれい」な時間を、ただ反芻するだけ。
だけどそれはこれ以上ない宝物だから。
 
特殊な状況でこそ、人の気持ちや感情はクリアになるなーと、本を読んでてよく思います。
この不気味な城の中で、二人の友情はくすぐったいくらい純粋に輝いていて、
だからこそ、ラストシーンがたまらなく切なくて哀しく、そして美しく感じられるのですね。
 
星は三つ。
雰囲気はすごく好きで、面白く読みました。
ただわざとでしょうけど、色々書き足りない部分が多くて、
それを補完するには私の想像力が足りなくて、物足りなさを感じてしまう部分もありました。
それでちょっと星四つにできませんでした…><