駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『開かせていただき光栄です』 皆川博子

やーん、素敵すぎる~><
解剖室から始まる物語で、なんと妊婦の解剖なんてやってるんですよ。
で、胎児が六カ月くらいだからって、その屍体を「六ヶ月」呼ばわりで。
さらに変死体が次々と転がり出てくるのに、全然陰惨な雰囲気じゃないんです。
それどころかコミカルですらある冒頭シーン。一気に引き込まれましたよ。
 
初・皆川作品でした。
とても興味ある作家さんで、でも何となく手ごわいイメージを抱いていて、
結構気合い入れて読み始めたのですが・・・いやー、びっくり。読みにくそうなんて杞憂でした。
読みやすい読みやすい。
するするっと物語は軽やかに綴られていて、どんどんページをめくっていけました。
 
<内容紹介>(amazonサイトより)
開かれたのは、躰、本、謎。作家生活40年のキャリアを誇る著者の集大成にして新境地! 18世紀ロンドン。増える屍体、暗号、密室、監禁、稀覯本、盲目の判事……解剖医ダニエルとその弟子たちが辿りついた真実とは? 18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室から、あるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男性。増える屍体に戸惑うダニエルと弟子たちに、治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には、詩人志望の少年の辿った稀覯本をめぐる恐るべき運命が……解剖学が先端科学であると同時に偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちがときに可笑しくときに哀しい不可能犯罪に挑む。
 
18世紀のロンドンが舞台、謎めいて、グロテスクで、淫靡で、残酷な題材は、古典ミステリのようなのに、
流れる空気は全然古くさくなくて、生き生きしてるんです。
あれもこれも出てくるものは古めかしいのに、まったく遠い世界な感じがしなくて、
目の前で当時の生活が繰り広げられ、キャラ達がその時代を生きてるんですよね。
ちょっと乱暴な例えですが、先日見た映画の「タンタン」のようでした。
この映画では、古い舞台の物語を白黒映画で見るのではなく、最新3D技術で見るわけです。
細部まで行きとどいた描写は、リアルに当時の世界を再現していて、
目の前で見ているような臨場感がありました。
その鮮やかな臨場感がこの作品にも感じられたんですよね。
当時の生活感をリアルに再現しつつも、文章の感覚は非常に現代的で、
古めかしさを感じさせずとてもとっつきやすい。会話のテンポが絶妙。
翻訳ものっぽい台詞や表現が出てくるのだけれど、さりげなく予備知識のフォローを入れてくださってるので、
翻訳ものが苦手な私でもすごく読みやすかったです。(いや、これ翻訳ものじゃないですけど…笑)
 
そしてそこに登場する人物たちが非常に魅力的で、たまらないんですよね。
どのキャラも実によく立っていて、特に容姿端麗エドワード(笑)と盲目判事サー・ジョンにうっとりでした~。
解剖医ダニエルは愛すべき変わりもの、その弟子たちも個性あふれる面々で、楽しかったですねー。
エドとナイジェルの二人はどこか怪しい雰囲気を醸し出していて、女子のハートをくすぐるし(笑)、
判事の補佐である男装の麗人アンも、場所によって着替え分けたりして、
見せどころのツボをきちんと押さえてらっしゃる!
エドのようなキャラは他でも見かけるけれども、判事さんはちょっと異色でした。
その紳士的かつ清廉な渋さにやられておりましたよ~><
盲目というデメリットを武器に変えて、超然とある様はほんとうに素敵でした~。
 
物語の途中まで、現在と少し過去の出来事が交互で語られるんですが、
その描写のつながりが実に巧妙なんです。読んでてどんどん続きが気になっていくんですよね。
そして中盤からは判事とエドの緊迫したやり取りに引き込まれます。
ミステリはそんなに驚くようなトリックが仕掛けられているわけではないのですが、
あちらこちらにばらまかれた伏線が華麗に収められていく様は素晴らしいです。
事実が次々と覆され、証言は嘘と真実が入り混じる。
それに心地よく翻弄されながらの読書でした。
 
解剖室や顔の潰された屍体など、グロテスクな題材にあふれているのに、非常に品があり、
そしてユーモアにあふれていて、軽やかなのに、しっかり上質なんです。
とっても上等な娯楽作品。
うーん、皆川先生、ブラボー!
 
大満足の読書でした(^^)
星は四つです。
このあと続編も予定されてるとか。もう楽しみな限りです♪