駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『ツリーハウス』 角田光代

久しぶりに角田さんの作品を読みました。
いやー、よかったです、すごく。
だのに、返却日ぎりぎりまで読んでたから、手元に本がないままの記事になります。
ちゃんと書けるかなぁ…(^_^;)
 
<内容紹介>(amazonサイトより)
謎多き祖父の戸籍──祖母の予期せぬ“帰郷”から隠された過去への旅が始まった。満州、そして新宿。
熱く胸に迫る翡翠飯店三代記。第22回伊藤整文学賞
 
結構分厚い本だったんですが、するする読めました。
読み終えて「よかったー」と満足感にひたる読書ができました。
でも何がよかったのか、上手く説明しづらいんですよね。
だって、「藤代家三代記」というものの、すごくドラマティックな展開があったり、
ものすごい苦労の連続だったりする物語ではないからです。
(もちろん戦争下でのお話では、今では考えられないような苦労をしてるわけですけど)
満州での描写など見て、なかにし礼さんの「赤い月」を思い出したりしたのですが、
ああいったドラマティックで壮絶な話と比べると、
時代に流されるままに生きた普通の人のお話なのです。
 
そこでふと思ったのは、
私の人生だって人に言って聞かせるようなすごい経験があるわけじゃないけど、
私なりに色んな苦労や喜びがあった人生なんだよなーと言うこと。
誰しもドラマティックな経験に溢れてるわけじゃない。
だからって、何もない人生を送ってるわけじゃないんですよね。
他人から見たらありふれた出来事でも、本人にすれば天にも昇るように嬉しいことだったり、
切り裂かれんばかりに胸を痛めることだったりするんですものね。
この本では、小説で描かれるにしては、
なんでもない普通の人々のお話が延々と描かれているだけと言ってもいいかもしれません。
だけど、不思議と引きこまれるんです。
それは角田さんの上手さにあるんだと思います。
出てくる登場人物が、血を通わせてそこに存在しているんですよね。
決して魅力的とは言い難い人々なのに、リアルに目の前に立ってると気になってしようがなくなって、
どんどんページをめくっていってしまいました。
当時の空気を感じさせるような、何気に詳細な描写も素晴らしいなと思いました。
分かりやす過ぎる流行り言葉は、ちょっと笑っちゃいましたけど。
 
これを読んでもう一つ思ったのは、
良く言われる「子は親の言う通りには育たない、親のやる通りに育つのだ」ということ。
過去と現在を行ったり来たりしながら、物語が綴られるわけですけど、
途中どっちの世代の話か混乱してしまうことがありました。
それは親世代と子世代がよく似ていたからです。
でも読みながら、そうやって混乱するように書かれてるのはわざとだろうなーと思えました。
親のこうなってほしいという理想に反して、子どもが育っていく。
気づけば自分の道を辿るように。
そしてそんな親の想いも、さらには子ども自身の想いもそっちのけで、人生は流れていくのです。
そのことが怖くも思え、尊くも思えました。
人生を切り開くというのは、流れに逆らうほどの強い意志や力が必要で、
そうでないと周りに押し流されてしまうのですね。
 
「逃げる」ばかりの藤代家の家族を綴った物語。
流されるままの人生だけれど、それを否定する書き方はされていません。
角田さんの手によって、どこかあったかい目線で、
「こんなでもまあ悪くないよね」と思えるような物語になっています。
角田さん、こんなお話も書くのかーと今までのイメージを覆されました。
(そんなに数多くは読んでないんですけど)
もうちょっと他のも読んでみようかな。
 
星は四つです(^^)