駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『我が家の問題』 奥田英朗

うーん、やっぱすごいな、奥田さん。
もうそこら辺の人、誰にでもなれるんじゃないの?って思っちゃう。
そのくらい当事者になりきって語るのが巧いんですよ!
なんで主婦の心理とか書けちゃうのかなぁ?
 
<内容紹介>(amazonサイトより)
平成の家族小説シリーズ第2弾!
完璧すぎる妻のおかげで帰宅拒否症になった夫。両親が離婚するらしいと気づいてしまった娘。里帰りのしきたりに戸惑う新婚夫婦。誰の家にもきっとある、ささやかだけれど悩ましい6つのドラマ。(「甘い生活?」「ハズバンド」「絵里のエイプリル」「夫とUFO」「里帰り」「妻とマラソン」)
 
お話自体は、どこにでも転がってそうな家族間の問題をテーマにしています。
だけど当事者にとっては大問題で、リアルに描かれるもんだから、
読み手としては引っ張られるように読んじゃいました。
ワイドショーネタとか、ご近所さんの井戸端会議とか、全然興味ない私なのに、
奥田さんの書かれる、他人の家をのぞき見する様な話になぜか引き込まれてしまうんですよねー。
それはやっぱ奥田さんの巧さにあるんだと思います。
 
人は自分が一番かわいくて、そして一人一人の立場に言い分がある。
その言い分が他人にも納得できるくらい丁寧にリアルに描かれてるから、
つい親身になってしまって物語に引き込まれてしまうんだと思います。
同じ立場に立ったって同じように思わないかもしれない。
だけど彼らの言い分にも一理あると思えるんですよね。
 
この本では、それぞれの家庭での、家族の問題が描かれています。
問題と言うからには、自分にとって不都合なことなわけです。
でもこの本に出てくる人たちはみな、相手を一方的に責めるのではなくて、
問題解決のために相手を知ろうとするんですね。
何故こういう事態に陥ったのだろうと、一生懸命相手の立場に立ってものを考えようとします。
そしてお互いの価値観の違いを知って、それから自分にできることをはなんだろうと考えるんですね。
ここに出てくる物語は、特にオチらしいものはあまりなく、日常を切り取ったような物語で、
問題もきちんと解決するわけありません。
でもどのお話も希望の予感を残して終わります。
ああ、多分この家はきっと大丈夫だろう、と思える光があるんですね。
(絵里の話は、一家にとって明るい未来ではないけれど、
家族みんなが納得して出す答えは、それぞれ前向きの未来へとつながると思います)
思いやりという優しさに包まれた物語たちは、読んでいてどこかほっとさせられました。
 
いいお話で、読んで良かったです(^^)星は三つ。
短編集はさらっと読んじゃうので、どうしても星が少なめになっちゃいます…(^_^;)
 
余談ですが。
奥田さんが現在新聞連載をしている「沈黙の町で」を、毎朝楽しみに読んでます。
小さな町で、いじめに遭っていた生徒が転落死してしまう事件が起こります。事故か他殺か?
被害者親族、いじめの加害者の親、学校、マスコミ、警察など色々立場で物語が描かれます。
事件の真相を探るというより、そういう状況でのそれぞれの立場が詳細に描かれていて、
新聞で事件記事を見るときとは、まるで違う側面が見えてきます。
奥田さん得意の群像劇。この先の展開が楽しみです。