駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『ノーマジーン』 初野晴

初野さんやっぱ好きです~。
ちょっと独特でクセがあるんですけどね、
でも、何かに欠けた人たちに向ける、静かでじわっと満ちてくるような優しさが好きなんです。
ファンタジーのようでいて、ちらりと現実の毒を混ぜたところも初野さんらしい。
胸にちくちくと痛みが響くお話でした。
 
<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
終末論が囁かれる荒廃した世界で孤独な女性のもとに現れたのは、言葉を話す不思議な赤毛のサル
だった―ひとつ屋根の下、奇妙で幸せな一人と一匹の“ふたり暮らし”がはじまる。壊れかけた世
界で見える、本当に大切なものとは―不条理で切ない絆を描き出す寓話ミステリー。
 
作中に出てくる、有名な映画から引用されるメッセージ。
「完全な人間なんていない」
だから人は共に生きていくんですよね。
欠けた何かをお互いに補い合いながら。
 
肉体的にも精神的にも欠陥を抱えたシズカ。
空虚と孤独を抱えながらも、
自分の中の欠けた部分にはまるパーツを、きっとどこかで求めていたんじゃないかな。
そしてサルでもなく、人でもない、どっちつかずで不安定な立場のノーマジーン。
この子は自分が収まるべき場所を求めていたのでしょう。
運命的に出会った二人だけど、お互いコミュニケーション下手でなかなかぎこちないんですよね。
それがまたくすぐったかったりするのですけど。
お互い相手に投げ出されそうに不器用過ぎる二人なのに、
この二人は欠点で互いの穴を塞ぐようにぴたりとはまるんですよ。
じっくりじんわりとお互いが繋がりあう様子が、本当に嬉しくて、泣きそうに切なくもありました。
 
シズカは素直に感情を表現できずに、無愛想な対応しかできないんですよね。
「嬉しい」とか、「ありがとう」とかちゃんと言われ慣れてないと、人になかなか言えないものですから。
そういう反応に照れに照れてる不器用なシズカ。
だけど、ついつい愛情が零れちゃうとこがあって、やたら愛おしかったです。
誰かに必要とされることは、自分の存在価値を知ることで、
ノーマジーンを世話しながら、シズカは自分で自分の存在価値を認められていったんだろうな。
 
物語の背景に不穏に流れる「終末思想」。
どんなに前向きな言葉もすぐ先の闇に消されてしまうような、ひたひたと忍びよる閉塞感が終始漂っています。
その中で紡がれる二人の物語は、まるでロウソクの光のようでした。
闇に押し込まれそうに弱弱しく、だけどそっと温かく輝いて。
そして、限りある光であるという儚さ…。
太陽のように輝く未来を描くことは難しいけれど、
小さな喜びをそっと拾って、たどたどしく歩む二人の生活は、慎ましく、とても丁寧なものでした。
不自由な生活の中での、彼らの喜ぶ様を見るたびに、
私ももっと一つ一つ丁寧に喜びを味わっていきたいなと思いました。
 
ちょっと話がそれますが、リハビリを始めるシズカを見た時に、
この二人ってそういえばハイジとクララに似てるなって思ってしまいました(^^ゞ
おいしい食べ物に執着するノーマジーンと、車椅子のシズカ。
全然違うタイプで、境遇も違う二人だけど、凸と凹がぴたりとはまるように妙に相性よくて。
それぞれの無邪気さと理性的な様がそっくり、と思っちゃいました(^^)
 
鞄の設定も面白かったです。
実際に見てみたいなぁ、桐島の鞄。
花結びの栞も素敵そう。実際にないのかな?
 
色々語り足りなくて、欠けた所のある物語。だけどこれは二人の物語だからこれでいいのでしょう。
儚くて残酷で、だけど不器用さがあったかい物語でした。
星は四つです(^^)
 
あれ?内容紹介文に「ミステリー」ってある…。ミステリーだったの、これ?(^_^;)