駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『11 eleven』 津原泰水

おお、これは…難解ですが、なぜか癖になる感じでした。
結局どの話も理解できなかったんですけどね。
作者さんの独自の世界が繰り広げられているわけですけど、そこを覗き見るだけでも面白かった。
話が終わって、オチも何も分からないんだけど、不思議と不満は残らないんですよ。
何なんでしょうねぇ、読者を置いていってしまうような不可解さがあるはずなのに、
物語になぜか読者は取り込まれて、すっかり舞台に入り込んでしまうんですよね。
(まあ、中には置いて行かれた物語もありましたが…(^_^;))
それは、物語が圧倒的な背景を抱えているせいかもしれません。
一冊に11本の短編が収録されているので、どれも本当に短いお話ばかりなのだけれど、
文章の向こうに完全に出来上がってる世界があるのが分かるんですね。
だから難解でまるで理解できない世界なのに、すとんと入り込んでいけたのかもしれません。
 
<内容紹介>
業界を震撼させた『綺譚集』から7年、津原泰水が贈る、待望にして究極の作品集がついに刊行。著者ベスト短篇との声も上がっている「五色の舟」を筆頭に、「11」の異界の扉が開かれる。
 
一作目に「五色の舟」を持ってきたのが、大きいのかも。
このお話からじゃなかったら、私は初読みである津原さんの世界に入り込めなかったかもしれません(^_^;)
何がどうすごいのか説明できないけど、この一作目はすごかった。
どこの岸にも辿りつかず、ゆらゆら漂うように物語は紡がれ、
実物か水面に映る影かどちらかわからなくなる様に、やがて心地よい酔いを感じるのです。
そして読者はこの舟にいざなわれて、このおぞましくも幻想的な世界に入り込んでいくのです…。
 
というわけで、「五色の舟」が一番印象的だったんですが、それ以外だと、「微笑面・改」が好きかな。
もう何なんだ、このわけわからん事態は!
顔が日に日にどんどん迫ってきて、最後は…って、まるで想像できない描写なのに、
無理やり頭の中で映像化して(私はいつもテレビ見るみたいにして本読んでるんです)、
最後のとこで自分の頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃうのがなぜかたまんなく刺激的で、印象的でした。
想像できなそうで、ぎりぎりなんとか想像できそうな、その描写がいいんだ~。
あとは「手」も好きでしたね。比較的分かりやすいお話だったからかな。
「クラーケン」と「テルミン嬢」は作者の思うがままに駆け抜けていく物語で、必死になってついて行きました。
なんとかたどりついたラストで、思わずがつんとやられたとこが印象深かったです。
 
どのお話も、異世界に引っ張り込まれていくようで、読んでて落ち着かなくなる不安定感がつきまといます。
この世には、確かなものは何もなく、自分の存在すら危うくて、
だけど何とか踏みとどまろうとする人びとがここでは描かれていて、
その漂うような奇妙な浮遊感を楽しみました。
 
面白かったです。星は三つ。
五つに届かない二つ分は、マイナスではないです。
難解さと奥深さに、星三つ分までしか理解できなかったということです…(^_^;)未熟。