駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『千年の黙 異本源氏物語』 森谷明子

初読み作家の森谷明子さんの作品です。
 
源氏物語と言えば「あさきゆめみし」くらいしか知識のない私ですが、光る君と言えば食いついてしまいます(^_^;)
(完璧なイケメンに惹かれるのは、いつの時代も同じですよね~・笑)
 
帝ご寵愛の猫の失踪事件を描く一部、源氏物語「幻の巻」についてめぐらされる二部、
そしてそれをきれいに閉じる短い三部から成る作品です。
これらの謎を解くのは、紫式部。この紫式部像がなかなかよいんです。
陰険だとかヒステリーとか、人物としてはあまりいい評価を聞かない人ですけど、
この物語ではいい感じで捻くれてて、頑なで、でもそれが素敵に描かれてるんですねー!
ああ、紫式部ってこんな風にも見れるんだなーと嬉しい発見でした。

定子と彰子も対立した立場ですが、これまたどちらもとても魅力的に描かれていてよかったです。
紫式部の話なので当然なんでしょうけど、特に彰子の描写がよかったですね。
立場をわきまえつつも、凛と自分を持ってる様が素敵でした。
清少納言がちょっと可哀想だったかな(^_^;)
紫式部なんかはちゃんと評価してそうだったけど、語り手が女童の「あてき」だったりしたせいか、
いじわるっぽく見えちゃってましたね(^_^;)もう少しフォローが欲しいなぁと個人的に思ったりしたのでした…。
 
第一部のミステリは、なんとなく想像もついたし、そんなびっくりな展開ではなかったんですが、
当時の様子が色々描かれているのがとても興味深かったです。
都を走り回るあてき視点で、平安時代を見て回れるのがよかったですねー。

そして、メインとも言える二部です。
源氏物語の順番に諸説あるとか、写本であるがゆえに元の姿がはっきりとわからない、
というなんとなくの知識はありましたが、「幻の巻」について描かれたこのお話はとても興味深いものでした。
「かかやく日の宮」という幻の巻の存在、そしてそれを失うまでが、とても分かりやすく説得力があって、
もうこれが真相なのでは?と思えそうなくらい納得いく流れでした。
これを読むと「かかやく日の宮」は絶対必要だと思えるし、なんとしても読みたくなっちゃいます(笑)
(原文をちゃんと読んでない私が何を言うか、って感じですけど…)
そして最後の紫式部中宮と対話は、緊張感があってぞくぞくっときました。ここの中宮様、本当に素敵(^^)

そして短くも鮮やかに紫式部が締める「雲隠」。
二部のあてきの目線では控え目に見えた紫式部の、本音がまざまざとここで描かれます。
自分の作りだした物語は、自分を投影する自分自身でもあるし、その手から離れることで、大衆のものにもなり、
他人の意図によって違うものとなって、独り歩きし始める。
それでもその物語を閉じる際には、自分の物語であることの責任や自負を持って閉じねばならぬという、
紫式部の物語への強い覚悟や執着とも言えるものが、
静かな口調の中で激しく語られる様は、本当に痺れました。
 
あと、創作ではあるんですが、源氏物語が執筆され広まる様子を見れたのも、とても面白かったですね。
評判の物語が、印刷技術のない平安と言う舞台で、せっせと行われる写本によって広まっていくんですよね。
それこそ労力を惜しんでは、素敵な物語を読むことにはたどり着けないのです!
それなのにあんなに皆が読むほどまでに広がるって、作者にしたらなんという誉れでしょう。
だからあんなに長い物語を紫式部はせっせと書きあげたのかなぁ、なんて。
読み手あってこその物語ですよね。

そして、女人が仮名で書きすさぶ物語を、しかも帝に対して不敬にあたるあの話を、
貴族の男性たちはどんな風に受け止めたのだろうと不思議に思ったりもしたのですけど、
道長の意外な面での高評価、
口ではあれこれ言いながらハマってしまってるかわいい実資などの反応がとてもよかったです。
 
星は四つ。
ミステリと言うより、源氏物語創作秘話って感じで楽しみました(^^)
この作品は全三作のシリーズものだそうなので、ぜひとも続きを読んでいきたいと思います♪