駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『銀二貫』 高田郁

自分の好みとして、いわゆる「いいお話」はあまりハマれないタイプと思ってるんですが、
なぜか高田さんの本には毎回ぐっと引き込まれます。
今回も読みながら、エピソードの一つ一つが沁みんこんできて、胸打たれました。
不幸に見舞われた主人公が、理解ある温かい人たちに囲まれて成長していくという、
大筋はありきたりな王道なお話なんですけどねぇ。
それがなぜだか、読んでいくうちにぐいぐい引き込まれて、
ハッピーエンドになるはずだと分かってるのに、続きが気になって、一生懸命読んでしまうのです。

<内容紹介>(「BOOK」データベースより)
大坂天満の寒天問屋の主・和助は、仇討ちで父を亡くした鶴之輔を銀二貫で救う。大火で焼失した天満
宮再建のための大金だった。引きとられ松吉と改めた少年は、商人の厳しい躾と生活に耐えていく。料
理人嘉平と愛娘真帆ら情深い人々に支えられ、松吉は新たな寒天作りを志すが、またもや大火が町を襲
い、真帆は顔半面に火傷を負い姿を消す…。

作者が主人公・松吉に入れ込みすぎないのがいいのかな。
悲劇をここぞとばかりにえぐり出すんじゃなく、淡々と描く。
だって不幸を背負ってるのは主人公だけじゃないんだもの。
その舞台全体に等しく配られる視線が、私の肌に合うのかもしれません。

誰もがそれぞれの道を必死にひたむきに生きてるのが、すごくいいです。
一人ひとりが自分の道と向き合い、きちんと生きてる様が描かれていて、
互いがもたれ合ってるような甘さはありません。
時には自分の道を貫くためにきつい物言いもしたりするけど、
それは自分個人の幸せのためではなく、周りの人の幸せを願う大きな志なんですよね。
だから彼らの行為は巡り巡って、誰かの支えになっていくのです。

主人公・松吉を囲む人たちの、さらりとした台詞の中に、ものすごく深い思いやりが見てとれて、
思わず涙ぐみそうになってしまいます。
人情に厚く、恩着せがましくない優しさが、読んでて素直に届いてくるんですよね。
そして、その思いに応えるべくひたむきな主人公もいい。
不幸を跳ね返せとばかりに意気込むような力強さはないけれど、
しなやかな枝のようにたわんでも、きちんと真っすぐに戻るんです。
じわりじわりと少しずつでも確実に歩を進める様には、とても励まされる思いがします。

中でも、和助さんの存在が素晴らしい。彼は本当にブレない。
この物語の柱となってるのは、彼だと思います。
巡り巡った彼の銀二貫が、形を変えて松吉の前に再び現れた場面には、涙ものでした。
お金という一見俗っぽいものでも、信念が加われば、
こんなにも素晴らしく力を発揮できるのだと感動しました。

星は四つ。
とても高田さんらしい、見事な作品でした。
「みをつくし」シリーズが好きな方は、こちらもぜひ。