駄文徒然日記

移行したばかりです。これから整理していきます。

『ポトスライムの舟』 津村記久子

これは感想が難しい…。
好きとか嫌いとか判断できないんだもんなぁ。
面白かったかと言えば、地味な話だしそうでもないかなと思えるけど、
かと言ってつまらなかったかと言えば、気になる個所がいくつかあったし、一気読みしちゃったんですよね。
それって面白かったってことなのかな、やっぱ…。
 
津村作品はこれが初。文章はちょっと苦手。読みづらい部分があって、何度か読み返したりしました。
だけど本自体は一気読みで、ストーリーにはすごく引き込まれたのだと思います。
 
登場人物の表記が統一されていません。カタカナだったり、アルファベットだったり。
「ポトスライムの舟」のカタカナ表記は独身者で、かな・漢字表記は既婚者なのかな。
(恵奈ちゃんはちょっと違うけど)。
そして「十二月の窓辺」では、自分の側に立つ人は名前で、そうでない側はアルファベットってことでしょうか??
つまり、表記の差は、世界の差であって、住むところが違うというくらいの隔たりを感じました。
多分そこには通訳が必要なほど、理解の違いがあるのでしょう…。
 
表題作、「ポトスライムの舟」。
先日読んだ、「クラウドクラスターを愛する方法」に出てくる主人公を思い出しました。
どこ向いて進んでいいのかわからなくて、漂流しそうな独身女性。
 
学校に通ってる間はまだ道があった。
だけど、なんとなく就職して、これといった目的もなく生きていると、
大海に投げ出されたような不安感に苛まされたりする。
結婚とか出産とか打ち込める仕事とか、選択肢がいくつもあるような気がするけど、
そのどれも選ばなかったときに、どうしていいかわからない、どう生きていいかわからない、
という状態になるのかもしれない。
ただ日々を過ごすには、途方もない海のように、人生はあまりに長いから。
 
だけど無為に送ってるような日々でも、積み重なっていくのだ。
気づけば世界一周ができるくらいの貯金がたまっているように、
友人が新たな生活を始めていたりするように、
知らないうちに守衛さんが自分を認識してくれてるように、
気づかないところで、刻々と日々は変わっていっているのだ。
水だけでも、ポトスがやがて伸びていくように、自分だって変わっていくのだ。
 
表題作の前日譚的な「十二月の窓辺」。
閉じ込められた狭い世界で、積み重なっていくのは、黒い感情。
ただひたすら落とし穴を掘っていくように、自分の足元を掘り続ける日々。
すみません、すみません、すみません、と周りに謝り続け、自分の存在価値を見失いそうになる。
気づけば自力では元の場所に上がれないほど、深いところにいるような…。
 
職場の向かいにあるトガノタワーの存在が、気になって仕方がない主人公ツガワ。
昔やったロールプレイングゲームを彷彿とさせる塔に似たそのタワーには、
何か宝物が隠されているかのように感じてしまうのかもしれない。
そこで働く人たちはどんなだろう、どんなお店があるんだろう。
気になって気になって、タワーに出入りしてる友人のナガトにあれこれ聞くものの、
自分ではなかなか行こうとはしない。
パワハラなV係長のように、目の前にそびえ、見上げる存在に、怖れようなものを感じてるのかもしれないし、
中をあれこれ妄想する楽しみを失いたくないのかもしれない。
だけどそこに踏み込んで、現実に触れて、その塔が特別な存在ではないことを知る。
そびえる塔に、塔を見上げるその居場所に、囚われていた自分に気づいて、世界はもっとフラットなことを知る。自分の足元に落とし穴はないし、自分と同類だと思って憐れんだ人も、
自分より上だと思ってた人たちも実はそうでもないと分かるのだ。
そして塔から離れてみたら、その周りに世界は広がっていて、目的や居場所はよそにも有るんだと気づく。
 
なんというか、けっしてドラマティックなハッピーエンドを迎える様なお話じゃないし、
あまり前向きとは言えない主人公たちなんだけど、なんだか読後に心地よさを感じる作品でした。
嫌いではない作風なので、もう何冊か読んでみてもいいかなぁ?
 
あと内容とは関係ないんですけど、ポトスを見ると罪悪感を覚える私は、
この作品をちょっと複雑な思いで読みました(笑)だって私、ポトス枯らしちゃうもんなぁ…(^_^;)
そして「十二月の窓辺」。登場人物名に、ツガワとナガトとアサオカって(笑)
わざとなのかな、気になってしようがなかったです。